いのちの物語

 葉室麟の「影ぞ恋しき」を読了した。著者は直木賞作家で、時代・歴史小説がテリトリーであり、出身地である北九州を舞台とした作品が多い。本書は、「いのちなりけり」「花や散るらん」に続く三部作の完結編であり、龍造寺家庶流の娘である妻の咲弥と、吉良上野介の孫で蔵人夫婦の養女である香也を護るために、元肥後鍋島藩の支藩である小城藩の藩士の雨宮蔵人が幕閣を相手に獅子奮迅の戦いをする姿を描いた時代小説である。
 鞍馬山で隠棲する蔵人の許を旧友の僧の清厳が訪れ、蔵人を国許に帰参させるために上方に来ている、鍋島藩士山本定朝からの便りを手渡す。定朝は後に「葉隠」の著者として知