お側用人の野望

 梶よう子の「赤い風」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、川越藩主柳沢吉保の命により、水もなく、赤土を巻き込んだ空っ風が吹き荒れる武蔵野台地の原野の開拓に協力して挑んだ武士と農民の姿を描いた時代小説である。
 武蔵野台地は北の入間川、荒川と南の多摩川によって画される広大な土地である。徳川時代に川越に最初に入封したのは酒井家(重忠)で、その数代を経て松平信綱の孫の信輝が転封になる。しかし、川越藩領大塚村の付近の立野は川越藩領、幕府直轄領、旗本の知行地が複雑に入り組んでいたため、境界紛争が絶えなかった。そのため、大塚村の近くの