「梶よう子」の日記一覧

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梶よう子 の 「商い同心 人情そろばん御用帖」

★3.3 時代は天保の改革に失敗し失脚した水野忠邦の後の時代。前作から丁度10年にしてシリーズ2作目。物語は前作から3年経過している。 北町奉行所の諸色調掛同心の澤本神人(じんにん)は諸色掛名主でもある横山町の町名主・丸屋勘兵衛を懇意にしている。諸色調掛は市中の品物の値が適正かどうか監察し、禁じられた出版物が版行されていないか目を配る仕事である。 神人は30半ばで未だ嫁取もできず…

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梶よう子 の「雨露(うろ)」

★3.3 小山勝美(後の浮世絵師・東洲勝月)の彰義隊参戦記。城山三郎の「雄気堂々」や植松三十里の「繭と絆 富岡製糸場ものがたり」などで渋沢成一郎や尾高惇忠、上野戦のことをある程度は知ってはいたが、その詳細を勝美を通して知ることになる。丸毛利恒が幕府との連絡役として登場するが、旗本の三男から旗本・丸毛彦三郎の養子となり彰義隊に参加した男。 川越藩右筆の次男として生まれた小山勝美は兄に誘われ2…

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梶よう子 の 「江戸の空、水面の風 みとや・お瑛仕入帖 4」

★3.3 シリーズ4作目。今回から文庫で出版。 兄の長太郎が亡くなって7年、世話になった森山のご隠居が亡くなって3年となる。お瑛は呉服屋の若旦那・寛平の紹介で成次郎と所帯を持ち、5歳の兄と同じ名の長太郎がいる。 成次郎は兄と同じ仕入れを担当。依然、橋を渡るのが苦手で猪牙舟の腕は落ちていない。前半は家族の話が中心だが、お瑛が新しい商売、品物の仲介を思いつく。後半は、親代わりのお加津が営む柳…

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梶よう子 の 焼け野の雉

シリーズ9年目で2作目。日本橋小松町でことり屋を営むおけいの物語。3年前に青く光る鷺を探しに出かけた夫の羽吉は行方不明だったが、崖から落ちて記憶をなくしその土地の娘の婿となっていた。娘が子を宿していたことから離縁してもらい、ひとりことり屋を続けていた。 神田佐久間町で起きた火事は燃え広がり、日本橋や八丁堀に延焼する。北町定廻り同心の長瀬八重蔵は言葉を失った娘の結衣をおけいに託す。おけいは…

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ジャパンブルーの江戸の空

 梶よう子の「広重ぶるう」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、風景画、名所絵を得意とする代表的な浮世絵師である歌川広重の生涯を描いた時代小説である。  歌川広重は本名が安藤重右衛門であり、江戸八代洲河岸定火消屋敷の同心、安藤源右衛門の子として寛政九年(1797年)に誕生している。源右衛門は入り婿であり、養父の安藤十右衛門との間に確執があった。文化六年(1809年…

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梶よう子 の 空を駆ける

★3.5 「小公子」を最初に翻訳した若松賤子(わかまつしずこ;ペンネーム)の生涯。 幕末に会津藩士の娘として生まれたカシは、会津敗戦後に養女に出され、10歳の時に横浜のフェリス女学院に給費生として引き取られる。アメリカ人に育てられたことで、英語力を完全に自分のものとし、英語の本を原文で読んでいた。 結核を罹患するも、明治女学校を開いた巌本善治と結婚し3児を儲けたが、31歳で没する。フ…

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見返り美人

 梶よう子の「吾妻おもかげ」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、浮世絵の祖と称される菱川師宣の生涯を描いた時代小説である。  菱川吉兵衛は吉原できれいな遊びをすることで知られており、どこかのお大尽の息子と考えられていたが、実際は安房国保田の縫箔師の息子だった。その吉兵衛が贔屓にしている格子女郎の小紫は情の強い女であり、今でも彼に心を許していない。その小紫を挟み、吉…

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梶よう子 の 吾妻おもかげ

★3.4 浮世絵の元祖とされる菱川師宣の生涯。 縫箔師の家に生まれた吉兵衛は、絵師になりたくて17歳で江戸に出た。だが、狩野探幽を頂点とする可能派は武士以外の入門を認めていない。 親の仕送りで吉原に通い、ほそぼそと読み本の挿絵を描く10年。明暦の大火が落ち着くと、江戸の民は独自の文化に興味を抱くようになった。吉兵衛はそれまで文章と挿絵が別々の頁だったものを、1枚の紙に納める様式を生み出した。…

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梶よう子 の 噂を売る男 藤岡屋由蔵

★3.4 藤原緋沙子の「見届け人秋月伊織事件帖」と同じくお成道で、古本を売りながら珍しい話を人に売る商売をする藤岡屋由蔵の物語。シリーズ化されるのか。 由蔵(須藤由蔵)の父親は上州藤岡宿で騙されて病気を持つ蚕の卵を扱ったことで首をくくった。幼いころ母親の背でそれを目撃した由蔵は、人の話を簡単に信じてはいけないことを肝に銘じた。 由臓は江戸城出入りの口入屋・埼玉屋の寄子として雇われるが30半ば…

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芸を極める

   ~~~ 読書感想 ~~~ 墨の香  梶よう子  評価 ☆☆☆☆ 女子とて、芸を極めてならんことはない。 出もどりの女流書家の凛とした筆が、 硯と墨が溶け合うように、 弟子たちの心をほぐしていく。 師弟の絆が胸に響く、「書道」歴史小説! 老中・水野忠邦が綱紀粛正に乗り出した 江戸時代後期。 突然、理由もなく嫁ぎ先から離縁された 女流書家の岡島雪江は、 心機一転、筆法指南所(…

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梶よう子 の 本日も晴天なり 鉄砲同心つつじ暦

★3.5 新しいシリーズもののよう。 鉄砲百人組は甲賀組、伊賀組、根来組、二十五騎組の4つの組があり、それぞれ組頭1人、与力20騎、同心100名で構成されている。同心は30俵2人扶持で伊賀組はつつじ、根来組は提灯、甲賀組は傘張りを生計の足しにしている。御徒組も朝顔栽培で糊口をしのいでいるのも皆同じ。 礫丈一郎と隣の増沢信介はともに32歳、妻帯し伊賀組に属している。そして柔術を習っており牛込の道…

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著者別インデックス:国内(梶よう子)

1.ヨイ豊 (2015.10)   https://smcb.jp/diaries/6977175 2.葵の月 (206.04)   https://smcb.jp/diaries/7213946 3.北斎まんだら (2017.02)   https://smcb.jp/diaries/7387437 4.墨の香 (2017.09)   https://smcb.jp/diarie…

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梶よう子 の 漣(ささなみ)のゆくえ

★3.3 とむらい屋颯太シリーズ2作目。 新しくお吉がとむらい屋に加わった。17歳のおちえと同い年。朝目がさめると同居の母親が首を括っていた。生活のために深川の子供屋といわれる女郎屋に通いで入ったという過去を持つ。 おちえの母親を馬のひずめにかけた侍が見つかった。急ぎの公務の途中でのことで、後で現場に戻って探したとのこと。侍はおちえに詫びるが・・。 とむらい屋という性格上、どうしても事件がら…

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梶よう子 の 三年長屋

★3.3 3年住んだら幸運が訪れるといわれる〈三年長屋〉には河童が祀られている。5軒ずつが向き合う棟割り長屋。住人は小間物商いのお増、古手屋の吉五郎一家、魚屋の定吉夫婦、八卦見の順斎、屋根職人の正蔵、穴蔵職人の熊八夫婦、水茶屋勤めのおれん、おしんと甘酒売りの多助姉弟、無職の権助、戯作者志望の菓子屋の勘当息子・豊太郎。 雇われ差配はさる小藩を致仕した左平次、表通りで楊枝屋を開いている。妻を亡くし…

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梶よう子 の 菊花の仇討ち

★3.4 シリーズ3作目。作者のデビュー作でもある朝顔同心シリーズである。2作目は1作目の5年前という変則設定だったが、今回は2作目の2年後という設定。 中根興三郎は北町奉行所の両御組姓名掛(りょうおくみせいめいがかり)という名簿作成役の閑職である。妹の千紗(ちさ)は与力の高木惣左衛門に嫁いでいる。頼まれて松本一悟の開く星陵塾で朝顔の講義もやる。 中根家に定廻り同心だった父の代から仕える50…

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梶よう子 の とむらい屋颯太

★3.5 6つの連作短編。 颯太は新鳥越町2丁目でとむらい屋を営んでいる。16歳のおちえ、僧侶の道俊、棺桶作りの勝蔵と弟子の正平、雑用係の寛次郎を使っている。 付近を受け持つ南町の定町廻り同心は韮崎宗十郎と17歳の小者・一太。出入りしている町医者の巧重三郎は南町奉行・榊原主計頭忠之の遠縁に当たる。 物語は何らかの事件の結果による御用の葬儀と、死者の生前のしがらみがからんでくる。だが、颯太の葬…

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梶よう子 の お茶壺道中

★3.4 宇治の茶園で生まれ育った仁吉は人並外れた味と香りを感じる能力を持っており、お茶壺道中で代表される宇治茶を誇りに思っている。 物語は宇治の出で日本橋にある茶問屋・森山園に奉公に出た若者の活躍譚である。物語は幕末の安政2年(1855年)から始まる。 横浜への出店や茶葉輸出による品薄、国内動乱による輸送の危機などを迎えながら店の維持発展に尽力し、最後は番頭から店の主にまで。 3千石の旗…

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お側用人の野望

 梶よう子の「赤い風」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、川越藩主柳沢吉保の命により、水もなく、赤土を巻き込んだ空っ風が吹き荒れる武蔵野台地の原野の開拓に協力して挑んだ武士と農民の姿を描いた時代小説である。  武蔵野台地は北の入間川、荒川と南の多摩川によって画される広大な土地である。徳川時代に川越に最初に入封したのは酒井家(重忠)で、その数代を経て松平信綱の孫の信…

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梶よう子 の はしからはしまで みとや・お瑛仕入帖3

★3.3 シリーズ3作目。 最初に兄の長太郎がふぐに当たってしまう。これまでの謎めいた兄の仕入れの話を振り返ってみると、このタイトルにたどり着くまでの設定だったようだ。 今回の全体を貫いているものは、兄の仕入れの足跡をたどる物語。38文というのは現在の価値で千円ぐらいの物なのかな。そろそろ品物を持ち込んでくる業者も現れていいのだが。 どうもこの作者の筆調にキャラが合っていないのか、物語の設…

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梶よう子 の 赤い風

★3.4 川越藩の柳沢吉保時代に開発した三富新田の物語。 秣場としての入会地5千町歩の土地を畑地に変える。筆頭家老の息子曽根啓太郎と農民正蔵の若者成長譚でもある。 一人5町歩の土地を短冊状に区画し入植者を募って与える。物語は、水が得られるか、土地に何の作物が適するのか、採算がとれるのか、何も説明の無いままに上意下達の机上論で進む。 しかも北宋の王安石の新田開発法を取り入れたということで論語…