連載:年をとるのも悪くない

「森昌子さんへ」

駅まで歩いて行こう。時間はあるし、運動にもなる。大股で歩くよ。背中のリュックにはフォトブックが二冊入っている。

駅近の洋装店に半額という紙が貼ってある。閉店セールだ。あっ、クリムトだ。あのポシェットだけだ、見るだけだ。店内に入った。70代くらいの店主夫婦が相手しているのは、80代に見える女性。間にはガラスケース。ここは女性が好きそうなものが揃っている。

「似合わないわよ。それにもう年だし」
迷っている。デザインのいい腕時計がケースの中にある。私が出したポシェットを見て、「あら、クリムトね」と言う。
「その時計、きっと似合いますよ。」

聞けばこの近く