さんが書いた連載年をとるのも悪くないの日記一覧

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「限られた休み」

やっと降った。おまけに寒い。休みに入って変わったことがある。 1、続けざまに友人たちに会った。週に三日といえども、やはり仕事していると、今日は仕事かもしれないと連絡を控えてしまう。友人は皆よく喋った。やっと「聞き役」に回れるようになっている。今まで随分友人には聞いてもらった。 2、本を読んだ。一度読み始めてやめていた本をまた読み始めた。本が読めなくなったのを年のせいにしていた。美術展に行った…

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「私達は起きている」

「静かだ」 「皆眠っている」 「僕は眠ってない」 「君は起きてる」 彼が目覚めた時の医師の喜びよう。彼は扇風機の風にも感動する。外から聞こえて来る車の音に、窓に近づいて行く。金網越しに外を見る。ママがやって来る。両手を広げて「ママ、ママ」と近づいて行く。 覚束ない足取りで部屋の外に出る。毎日世話をしてくれた看護士が自己紹介する。トウモロコシをこれ以上美味しいものはないという顔で食べる。今ま…

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「森昌子さんへ」

駅まで歩いて行こう。時間はあるし、運動にもなる。大股で歩くよ。背中のリュックにはフォトブックが二冊入っている。 駅近の洋装店に半額という紙が貼ってある。閉店セールだ。あっ、クリムトだ。あのポシェットだけだ、見るだけだ。店内に入った。70代くらいの店主夫婦が相手しているのは、80代に見える女性。間にはガラスケース。ここは女性が好きそうなものが揃っている。 「似合わないわよ。それにもう年だし」 …

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「後悔のない人生なんてない」

外に出るとちょうど彼女がやって来たところだった。家の鍵は持っているのだろう。私は走り寄った。 彼女は遠く九州の家を売り払い、千葉県に住む娘の家の近くに引っ越して来た。 ベビーカーにお孫さんを乗せた彼女とよく会う。保育園からの帰りだ。お爺ちゃんが車に乗せていることもあるし、お孫さんを抱っこして蕩けそうな顔して歩いていることもある。保育園の送迎以外にどこまで娘さんの家事を手伝っているのだろう。 …

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「手間いらず」

帰宅すると芽が出たばかりの水仙が倍になっている。暖かい。和水仙の花はもう終わりかけているが、違う種類の水仙も植えている。芽が出て来る時期がこんなに違うとは思わなかった。 また、桃太郎をリビングに入れた。純白と言う言葉があるが、薄い桃色に全く混じりっ気が無い、純桃。庭に出る度、蕾を数えていた。高さは6,70センチしかないし、幹はまだ細く1センチ程だ。それなのに、蕾は20個もある。確か去年は10個…

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「孤独との付き合い方をまた一つ見つけた」

やっと見つけた気がした。 薄暗い室内に展示された絵はどれもこれも皆小さく精緻で、顔を近づけて見た。それができる入場者の数だった。描かれた植物には見覚えがある。見覚えがあると言うただそれだけで、こんなにも心躍るものなのか。 一度行ったことがあった。スカイツリーが見える地域をぶらぶら歩いていたら、それにぶち当たり、たった100円という料金に惹かれて入った。建物は自己主張せず控えめだったが、中は…

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「暇なときには料理で遊ぶ」

大きなジャガイモを洗って半分に切り、蒸し器で蒸す。 その間に玉ねぎをみじん切りにする。フライパンに黄色いチューブに入った明治の「バター三分の一」を入れて弱火でしんなりさせ、中火にして豚挽肉も入れて、塩コショウと、本当はコンソメを入れたいところを鶏がらスープの顆粒を入れて炒めておく。 ジャガイモが柔らかくなったら、取り出して熱いうちに皮を剥く。面白いように薄く剥ける。懐かしい。 子供の頃夏…

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「善行が必ずしも報われるとは限らないが」

買い物してきたものを玄関に置いて、ゴム長に履き替えた。水やりだ。今年になって全くと言っていいほど雨が降らない。 一秒でも早くソファーに横になりたいが、そうしたらもう二度と起き上がれないことがわかっている。それに、体には心地よい疲労感とでも言いたくなるような充足感が残っている。 仕事のある日は朝の6時半に家を出る。まだ薄暗い。坂道を登り切って少し行った辺りに、婆様の姿がある。ゴミの集積場辺り…

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「ブロッコリーが咲いた」

ブロッコリーが咲き出した。野菜用の深いプランターに植えた苗は、順調に生長し、農家が育てているのと変わらない大きさになった。一株98円の植物がこれほどまでに私を喜ばせるのか。私は毎朝眺めた。 葉っぱは人並みになったが、果たして実が出て来るのか心配していた。 やがて小さな花芽の集合体が顔を出したとき、万歳をした。なんだ野菜造りは存外簡単ではないか。スーパーで一個198円の値段がほぼ一年中下がらな…

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「ありがとう」

年末は休みになる仕事もあれば、逆に忙しくなる仕事もある。 「今年最後の買い物に行くぞ」 まずは最寄りの駅にあるデパートから兄弟たちにお歳暮だ。送ろう送ろうと思いながら、ずっと先送りにしてきた。 お歳暮専用のスペースが狭くなっているのは、もう既にピークを過ぎたからだろう。売り切れの紙が貼られた商品もある。お肉にしようか、甘いお菓子にしようか。どうもピンとこない。やめだ。いつも果物を送る八百屋さ…

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「孤独」

台所の窓辺にスマホを立て掛ける。イヤホンの方が「自分だけ感」を満足できるが、周りの気配も感じていたい。 6時半はまだ薄暗い。外に出ると明るい満月が笑っている。 自転車に乗るときにはイヤホンは危険だから聞かない。 「朝の空を見上げて 今日という一日が 笑顔でいられるように そっとお願いした」 声に出して歌う。前から子犬を連れた爺様が来た。 「おはようございます」 急坂は自転車に乗ったまま…

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「故郷は遠きにありて思うもの、なんかじゃなくて」

緑一色だ。千葉県よりかなり北に行っても瑞々しい緑のまま。いかに一週間前の台風で、千葉の塩害が酷かったかがわかる。 うちの近所は街路樹や庭木が不自然に赤茶けた色に枯れている。初めは紅葉と区別がつかない気がしたが、台風から日が経つに連れて枯れた部分が目立つようになった。木全体ではないから、台風の風が強く当たった部分だけなのだろう。 三連休に故郷を訪ねた。直前まで前回とほぼ同じコースを辿っている…

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「こんな風に老いたいと思った」

最初の人が朗読する前に、コメントを始めた。ちっとも頭に入って来ない。とにかく美しい人なのだ。押しつけがましさがどこにもなくて、こんなに素直な美貌の持ち主はさぞや幸せな人生を送ってきたのだろうと思われる。その人が今日は胸に白い花のブローチを付けている。『野ばら』を朗読すると言うとわざわざネットで調べ、一週間もかけて娘さんが作ってくれたものだという。一週間も?!そこだけが残った。 朗読が始まった。…

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「思い出箱」

『かいじゅうたちのいるところ』、『三匹のヤギのがらがらどん』、『おおきなかぶ』。本屋の絵本コナーに行くと、今も家にある絵本に出会える。他にも見たことのある絵本が何冊も並んでいる。30年間以上売れ続けているのだ。絵本にも名作がある。 娘が好きだったのは『三びきのやぎのがらがらどん』だ。一度読み終わると「また読んで」とせがんだ。娘も怖がったが、橋の下にいる得体の知れない怪獣は私も怖かった。 子供…

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「年を取るのも悪くないその③:心慰めるもの」

カサブランカが咲いた。花屋で買うことでしか手に入らなかった高価な花が、目の前にある。一週間も続いた強風にリビングに避難させていたものを漸く外に出した。一輪、また一輪と咲いた。窓際に置いたソファーを隣の和室に移す。カーテンは閉めない。すっきりした部屋から、力強い真っ白なその姿が見える。 空をよく見た。足を留めて見たくなるような美しい空が連日続いた。妖しいまでに美しい空の向こうで、平成最大の水害が…

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「年を取るのも悪くない:その②『安心感』」

昼休みを終えてフロアーに戻ると、そこはまるで「天国」だった。マリコさんを中心に三人が歌っている。透き通ったマリコさんのソプラノが響き渡り、絶えず歩き回るマツコさんがソファーに大人しく座っているだけでなく、一緒に歌っている。 「凄いですね」 記録を書いていた同僚に言うと、 「マツコさんがマリコさんに歌ってよと言ったんです」 マツコさんは目が悪いから歌集は持っていないが、童謡なら歌える。 そこに…

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「年を取るのも悪くない」

私は人に合わせるタイプで、相手の言うことにノーが言えずただひたすら耐える雪国の女だとずっと信じて疑わなかった。が、それは思い込みだと気付く年になってしまった。 総武線平井駅に集合するウォーキングイベントに参加ポチした。その近辺は何度か行ったことがあるが、河津桜があるとは知らなかった。あの濃いピンクは紅葉や桜同様、毎年見逃したくないものの一つだ。 朝玄関を開けたら雪交じりの雨だった。もし主催…