大きなジャガイモを洗って半分に切り、蒸し器で蒸す。 その間に玉ねぎをみじん切りにする。フライパンに黄色いチューブに入った明治の「バター三分の一」を入れて弱火でしんなりさせ、中火にして豚挽肉も入れて、塩コショウと、本当はコンソメを入れたいところを鶏がらスープの顆粒を入れて炒めておく。 ジャガイモが柔らかくなったら、取り出して熱いうちに皮を剥く。面白いように薄く剥ける。懐かしい。 子供の頃夏…
買い物してきたものを玄関に置いて、ゴム長に履き替えた。水やりだ。今年になって全くと言っていいほど雨が降らない。 一秒でも早くソファーに横になりたいが、そうしたらもう二度と起き上がれないことがわかっている。それに、体には心地よい疲労感とでも言いたくなるような充足感が残っている。 仕事のある日は朝の6時半に家を出る。まだ薄暗い。坂道を登り切って少し行った辺りに、婆様の姿がある。ゴミの集積場辺り…
ブロッコリーが咲き出した。野菜用の深いプランターに植えた苗は、順調に生長し、農家が育てているのと変わらない大きさになった。一株98円の植物がこれほどまでに私を喜ばせるのか。私は毎朝眺めた。 葉っぱは人並みになったが、果たして実が出て来るのか心配していた。 やがて小さな花芽の集合体が顔を出したとき、万歳をした。なんだ野菜造りは存外簡単ではないか。スーパーで一個198円の値段がほぼ一年中下がらな…
年末は休みになる仕事もあれば、逆に忙しくなる仕事もある。 「今年最後の買い物に行くぞ」 まずは最寄りの駅にあるデパートから兄弟たちにお歳暮だ。送ろう送ろうと思いながら、ずっと先送りにしてきた。 お歳暮専用のスペースが狭くなっているのは、もう既にピークを過ぎたからだろう。売り切れの紙が貼られた商品もある。お肉にしようか、甘いお菓子にしようか。どうもピンとこない。やめだ。いつも果物を送る八百屋さ…
台所の窓辺にスマホを立て掛ける。イヤホンの方が「自分だけ感」を満足できるが、周りの気配も感じていたい。 6時半はまだ薄暗い。外に出ると明るい満月が笑っている。 自転車に乗るときにはイヤホンは危険だから聞かない。 「朝の空を見上げて 今日という一日が 笑顔でいられるように そっとお願いした」 声に出して歌う。前から子犬を連れた爺様が来た。 「おはようございます」 急坂は自転車に乗ったまま…