総統になるはずだった男

 ラヴィ・ティドハーの「黒き微睡みの囚人」を読了した。著者はファンタジー、SF作家で、イスラエルのキブツで生まれ、15歳から南アフリカ共和国、ラオス、バヌアツ等、世界中を旅した後、現在はロンドンに在住している。本書は、「大転落」で失脚し、ロンドンで私立探偵をしている元ナチス指導者を主人公とした、ミステリー風味の歴史改変SFである。
 本書は一種のパラレルワールドSFであるが、各章の最後に登場するユダヤ人シュンド(パルプマガジン)作家でアウシュヴィッツの囚人のショーマーが見る夢であると思われる。本書の設定では、ドイツのナチスは1933年、ヒトラーが首相にな