不沈の鉄甲船

 木下昌輝の「炯眼に候」を読了した。著者は歴史・時代小説作家で、「宇喜多の捨て嫁」で第92回オール讀物新人賞を受賞して作家デビューしている。本書は、織田信長には物事の本質を理知的に捉える理解力(眼)があったとの立場に立ち、彼の事績を新たな視点で描いた歴史小説の短編集である。
 「水鏡」:信長の馬廻り衆の荒川新八郎は、「運ハ天ニアリ、死ハ定メ」を兜の前立に刻み、危険を顧みぬ勇猛さで知られていた。ある時新八郎は、信長の命により、従者の甚弥とともに高野山に間諜として入り込む。その時二人は、己の寿命が判るという「姿見の井戸」を覗き込んだが、二人の目には新八郎の顔