皇帝への道
馳星周の「北辰の門」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は、藤原不比等を描いた「比ぶ者なき」、藤原四兄弟と長屋王の壮絶な権力争いを描いた「四神の旗」の続編で、皇帝を目指した藤原仲麻呂(恵美押勝)の半生を描いた歴史ノワールである。 藤原仲麻呂は藤原南家の祖である藤原武智麻呂の次男として生まれる。しかし、天平九年(737年)、天然痘の流行により武智麻呂を始めとする藤原…
馳星周の「北辰の門」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は、藤原不比等を描いた「比ぶ者なき」、藤原四兄弟と長屋王の壮絶な権力争いを描いた「四神の旗」の続編で、皇帝を目指した藤原仲麻呂(恵美押勝)の半生を描いた歴史ノワールである。 藤原仲麻呂は藤原南家の祖である藤原武智麻呂の次男として生まれる。しかし、天平九年(737年)、天然痘の流行により武智麻呂を始めとする藤原…
伊東潤の「デウスの城」を読了した。著者は、主として歴史小説、時代小説を手掛ける小説家であり、緻密な時代考証で知られているが、最近はエンターテインメント性重視の作品や現代を舞台とした作品も手掛ける様になっている。本書は、キリシタン大名の小西行長の家中で、幼馴染として育った三人のキリシタン侍の関ケ原の合戦以降の人生を描いた歴史小説である。なお、本書はその三人の視点が交互に繰り返されて物語が進行する…
宮城谷昌光の「諸葛亮(上、下)」を読了した。著者は直木賞作家で、主として中国および日本を舞台とした歴史小説を手掛けている。本書は、三国時代きっての天才軍師と言われる諸葛亮の評伝小説である。なお、亮が諱(本名)であり、一般に有名な孔明は字(あざな)である。 諸葛亮は建興12年(234年)に徐州琅邪郡陽都県で諸葛珪の次男として生まれ、兄に諸葛瑾、弟に諸葛均がおり、二人の姉がいる。志学と言われる…
宮城谷昌光の「公孫龍 巻三 白龍篇」を読了した。著者は、直木賞作家で、主として中国および日本の歴史小説を手掛けている。本書は、古代中国の戦国時代に生きた公孫龍という人物の生涯を描いた歴史小説である。 本書の主人公である公孫龍は、史実ではその生い立ちについては不明であるが、本書では周王朝の最後の王となった赧王の王子の稜であったと設定している。彼は人質として燕に送られるが、それが彼を謀殺するた…
真保裕一の「百鬼大乱」を読了した。著者は江戸川乱歩賞出身のミステリー作家であるが、最近は時代小説や経済小説も手掛けている。本書は、亨徳の乱を通し、東国の諸葛孔明と呼ばれた太田資長(出家後の法名は道灌)の一生を描いた歴史小説である。 文安三年(1446年)、元関東管領の上杉憲実(法名:長棟)は、自らが再興した足利学校で、上杉分家(扇谷上杉家)家務(執事)の太田資清(法名:道真)の嫡男の太田源…
北方謙三の「チンギス紀 (十七) 天地」を読了した。著者はハードボイルド出身の作家であるが、先年完結した大水滸シリーズ等、最近は中国史を題材とした歴史小説が多い。本書は、ユーラシア大陸に拡がる大帝国の礎を築いた英雄チンギス・カンの人生を描いた物語の第十七巻で、シリーズの完結編である。 礼忠館を差配するトーリオはアウラガを出てカラコルムに向かい、耶律楚材に会う。耶律楚材と旅を続けたトーリオは…
塚本青史の「姜維」を読了した。著者は、主として中国史を題材とした歴史小説を手掛ける作家である。本書は、諸葛亮孔明亡き後に蜀軍を率いて魏と戦った、姜維の姿を通して三国時代後期を描いた歴史小説である。 姜維は建安七年(202年)に涼州天水郡冀城で生まれたが、その年に長らく曹操と争った袁紹が亡くなっている。翌建安八年(203年)には赤壁の戦いが起こり、曹操が劉備・孫権連合軍に大敗している。姜維の…
谷津矢車の「ぼっけもん-最後の軍師 伊地知正治-」を読了した。著者は歴史小説、時代小説作家である。本書は、戊辰戦争で活躍し、「類いまれな軍略家」と称えられた薩摩の軍師伊地知正治大政奉還の半生を描いた歴史小説である。なお、本書では晩年に主人公が薩摩に帰った明治十五年のパートと、戊辰戦争から西南戦争までの戦いのパートが交互に描かれており、前者は完全なフィクションである。なお、タイトルの「ぼっけもん…
垣根涼介の「極楽征夷大将軍」を読了した。著者は直木賞作家で、ミステリー、冒険小説出身であるが、最近は歴史小説や時代小説も手掛けており、本書で2023年、第169回直木三十五賞を受賞している。本書は、鎌倉時代末期から室町幕府創設時に至る政治的状況を、主として足利尊氏の弟の直義と尊氏の執事の高師直の視点で描いた歴史小説である。 又太郎(後の高氏、尊氏)は足利宗家七代当主足利貞氏の次男であるが、…
伊東潤の「天下大乱」を読了した。著者は、主として歴史小説、時代小説を手掛ける小説家であり、緻密な時代考証で知られているが、最近はエンターテインメント性重視の作品や現代を舞台とした作品も手掛ける様になっている。本書は、関ケ原の合戦を、主として西軍の総大将となった毛利輝元の視点から描いた歴史小説である。 自らの死期を覚った豊臣秀吉は、豊臣政権の後継者である豊臣秀頼の行く末を心配し、後に五大老五…
皆川博子の「風配図-WIND ROSE-」を読了した。著者は直木賞作家で、ミステリーから怪奇・幻想小説を幅広く手掛けており、今年93歳になるが、今でも現役作家として活躍している。本書は、バルト海交易で栄える十二世紀の三都市を舞台に、交易商人として生きようとした二人の少女を描いた一種の歴史小説である。 物語は1160年5月のゴッドランド島で始まる。同島はバルト海に浮かぶ最大の島であり、住人は…
北方謙三の「チンギス紀 (十六) 蒼氓」を読了した。著者はハードボイルド出身の作家であるが、先年完結した大水滸シリーズ等、最近は中国史を題材とした歴史小説が多い。本書は、ユーラシア大陸に拡がる大帝国の礎を築いた英雄チンギス・カンの人生を描いた物語の第十六巻であり、前巻に引き続き、モンゴル軍とホラズム国との戦いが描かれる。 カラ・クム砂漠でモンゴル軍に敗れたホラズム国の帝のアラーウッディーン…
伊東潤の「浪華燃ゆ」を読了した。著者は、主として歴史小説、時代小説を手掛ける小説家であり、緻密な時代考証で知られているが、最近はエンターテインメント性重視の作品や現代を舞台とした作品も手掛ける様になっている。本書は大塩平八郎の半生を描いた歴史小説である。 大塩平八郎は寛政五年(1793年)に大坂東町奉行組与力として大阪天満で生まれるが、彼が七歳の時に父親が亡くなったため、祖父の政之丞の養子…
羽鳥好之の「尚、赫々たれ-立花宗茂残照-」を読了した。著者は編集者出身で、文藝春秋社で「オール讀物」誌編集長、文藝書籍部長、文藝局長などを歴任し、退社後に本書で作家デビューしている。本書は豊臣秀吉から「西国無双」と称えられ、関ケ原の合戦で西軍に与して改易されながらも只一人旧領に復帰した、立花宗茂の晩年を描いた歴史小説である。 第一章「関ヶ原の闇」:寛永八年(1631年)初冬、六十五歳になっ…
宮城谷昌光の「三国志名臣列伝-蜀篇-」を読了した。著者は直木賞作家で、主として中国および日本を舞台とした歴史小説を手掛けている。本書は、「めずらしいほど無垢な人」と部下に慕われた劉備に従った、七人の男達の評伝である。 「関羽」:関羽は若い時に、人助けのために故郷の河東郡解県で土地の顔役を斬って出奔したために、元の姓名は伝わっていない。彼は商隊の警護人をして幽州涿郡に来た時に簡雍と知り合い、…
安部龍太郎の「家康 (八) 明国征服計画」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史・時代小説をテリトリーとしている。本書では、家康を臣従させた秀吉の北条征伐、家康の関東転封、朝鮮出兵等が描かれている。なお、本書は「家康」第四巻飛躍編の後半部である。 天正十六年(1588年)四月、豊臣秀吉は十八歳の後陽成天皇の聚楽第への行幸を仰ぐ。天皇は聚楽第に参集した公家、諸大名に関白太政大臣である秀吉の言葉…
安部龍太郎の「家康 (七) 秀吉との和睦」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史・時代小説をテリトリーとしている。本書では、小牧・長久手の戦いで大勝しながらも、織田信雄の裏切りのために窮地に陥った家康が豊臣秀吉と和睦する姿が描かれている。なお、本書は「家康」第四巻飛躍編の前半部である。 天正十二年(1584年)四月、徳川・織田連合軍は小牧・長久手の戦いで羽柴勢に大勝するが、秀吉は退却せず、両…