雑読散歩 ―時空を超えて奈良へ・「比ぶ者なき」―

まだ明けぬ梅雨の中、久しぶりに奈良を訪れた。といってもわが身を新幹線や夜行バスで運んだわけではない。活字の中をしかも時空を超えて訪れてきた。

持統3年(689)飛鳥浄御原宮の一室。案内人は初めてお目にかかった馳星周さん。私より20歳ほど若い小説家。聞くところによると新宿の歌舞伎町を舞台に日中混血の男女が中国マフィアの抗争に巻き込まれるという内容の「不夜城」で一躍脚光を浴びたそうだ。「そうだ」というのもその華々しいデビュー作はもちろんのこと、その後の本も手に取ったことさえなく、ただその名を知っているというに過ぎないのだから、こういう失礼な言い方しかできな