存在しなかったストーカー

 辻村深月の「傲慢と善良」を読了した。著者は直木賞作家で、ミステリー出身であるが、最近はミステリー以外の分野の作品も多い。本書は、突然姿を消した婚約者の過去を追う中年男性の姿を通して、現代の中年男女の間の愛情と婚活の問題点とを描いた物語である。本書は二部構成で、第一部は西澤架(かける)、第二部は板庭真実の視点で語られる。
 東京に住む39歳の西澤架は、急死した父親から継いだ小さな輸入会社の社長である。イケメンで社交性のある架はそれなりに女性にもてていたが、結婚を意識することが少なかったため、それまで付き合っていた恋人に去られてしまう。そのことを切っ掛けに