取り違えられた宝物

 東野圭吾の「希望の糸」を読了した。著者は直木賞作家であり、ミステリーを主分野としている。本書は、「祈りの幕が下りる時」に続く、「加賀恭一郎」シリーズの第11作である。ただし、本書において恭一郎は警視庁捜査一課に栄転しており、捜査本部のデスクという立場であるため、捜査の主役は恭一郎の従兄弟であり、捜査一課所属の部下の松宮脩平が担う。
 事件の前段として、二つのエピソードが語られる。一つは、汐見行伸と怜子夫妻の物語である。汐見家にはともに小学生の絵麻と尚人の姉弟がいたが、二人は新潟県長岡市にある怜子の実家に遊びに行った際に、新潟中越地震に巻き込まれて亡くな