五木著「旅の幻燈」を読む

「旅の幻燈」 五木寛之著 講談社文庫
1990年5月15日発行
ー「シロユキ!」
と、彼女は私を呼びつけにした。ヒロユキ、とはなぜか呼ばなかった。
 彼女は日本語をかなり達者に話した。だが、濁音のところがうまく発音できず、そのためにかえって軽やかで音楽的にひびく話しかたになるのだった。
 私は同胞の遊び仲間を持たずに育った。
「おまえの絵は、どこか変だな」
「なんだか陰気で、ぱっとしないなあ」
「どうしてですか、先生」
「さあ」
「おまえの性格的なものじゃないか」
 ゴーゴリの<死せる魂>を読み上げ、
<地獄>バルピュス作、と、印刷されたその本を私は手に