8、「朱鷺の墓上中」の厳しい生き方に引き込まれて(続き)

ー自分は確かに思いがけない不幸に見舞われた女だ、そして自分の人生をめちゃめちゃに一度はしたと思う。だが、現在の自分は、平穏無事に金沢で生きていたよりも、はるかに豊かな充実した人生をいま生きている、と染乃は感じるのだった。
 そして今、30歳をむかえた染乃は、すでに10年前とくらべると全く別人のような婦人として異国の街に生きていたのだった。
「わたくしは本当は日本人や日本という国に、それほど強い愛着を持っていないかも知れません。それより、肌の色や髪の毛や、地位や階級も国籍もちがう人間同士の結びつきに、とても心を動かされる性質があるようでございます」
「そり