読書「月光の東」宮本 輝

 36年前、13歳の淡い記憶を辿って、同級生だった美貌の塔屋米花(よねか)の今を確かめたいと願う男の軌跡を描く。男の名前は、杉井純造。

 それは19年前、30歳の杉井純造の結婚式当日、一通の電報が届いた。発信人の名前のない「ワタシヲオイカケテ」という文面だった。一体誰だろう。瞬時に杉井の頭に浮かんだのは、塔屋よねかという名前だった。中学1年生の秋、転校していって音信不通になった塔屋よねかが、どうして結婚式の日取りが分かったのか。
 ある筈もないこととはいっても、十五夜の月見の夜、「私を追いかけて。ねェ、月光の東まで私を追いかけて」と言いながら橋を渡って