連載:二人旅

「隠れ家的温泉みっけ」52.9

「カラオケ聞こえなかった?」
「はい、たった今来たので。」

顔も体も丸々とした婆様は言う。カラオケ?今は一番避けたい事だが、コロナなど関係ないのか。

もう上がるらしい。クラス会で集まりカラオケで盛り上がったのだという。他の人は既に入ったが、婆様だけは帰る直前に入る気になったらしい。


浴室の引き戸を開けた瞬間、「当たり」だと思った。窓が開け放たれている、直角に。その全面に竹林。

ガラスも何もない。婆様がいなくなると、私一人の貸し切り風呂だ。

湯は透明で臭いもないが、立派な温泉だ。桜の木もあるから桜の時期を想像するだけで嬉しくなる。

湯船は一つ