蝦夷へのはるけき道

 浅田次郎の「流人道中記 (上、下)」を読了した。著者は直木賞作家であるが、自衛隊入隊や一時期企業舎弟をしていた等、ユニークな経歴の持ち主である。作風は広く、極道小説、時代小説、中国歴史小説、現代小説など多岐に渡っており、「小説の大衆食堂」を自称している。本書は、切腹を拒否して流人となった大身の旗本青山玄蕃の言動を、押送人の石川乙次郎の眼を通して語る、武家社会の矛盾を描いた、一種の人情時代小説である。なお、本書では、第三者視点の道中記と、乙次郎が妻のおきぬに宛てた手紙が交互に描かれる。
 物語の舞台は万延元年(1860年年)である。35歳で3250石の旗