連載:読書感想文

137、『富士に死す』(新田次郎著)は富士講の身禄という行者を描く

『富士に死す』 新田次郎著 文春文庫
2004年5月10日発行
ー富士山信仰は、それまでは木花開耶姫を祭神としていたが、僧末代が浅間大菩薩を信仰し、神と仏が合体して、富士行即ち富士講の基礎を固めて以来、富士信仰は急速に大衆化した。
「富士山では登山のことを禅定というのだ」
「あなたは月行様ではございませぬか」
 伊兵衛は、月行との夜のことを本町の喜左衛門にくわしく報告した。
「月行様は無理をするなと言われたか。なるほど、いい御言葉を戴いたものだ。伊兵衛はたしかに無理をしていたようだな」
 喜左衛門と妻のかめとの間には伊兵衛を養子にすることについて意見が一