連載:読書感想文

140、『孤高の人(下)』(2)加藤は、単独行でない山行で遭難死せし

ー湯俣まで行くには、5日間ろくろく食べていない彼の涸れ果てたエネルギーの総てを上手に使わなければいけない。
 両足の凍傷はさらに上部に浸蝕していったもののように思われた。動かない足は歯がゆいばかりだった。
 新納友明が話しかけて来た。
 そこには新納友明のかわりに、雪をかぶった木の根っ子があった。
 10数年前に病死した新納友明の幻視を見た。
「おれは幻視幻聴なぞには負けないぞ。単独行できたえ上げた、強靭な肉体と精神力を持っているのだ。おれにはヒマラヤという目標があるのだ」
「そうだ加藤君、きみにはぜひヒマラヤに行ってもらわなければならない」
 藤沢久造