富士が見たい。私はいつもと反対回りに歩き出した。走った。早くしないと暗くなる。
まるで『走れメロス』だ。続いて「間に合う間に合わぬは問題ではないのだ。私は何だか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。」
突然右手から女性が両手で何かを持って現れた。鍋だ。一体何処に行くのだろう。
「娘のところに豚汁を届けるんです。この前主人に持って行ってもらったらこぼされちゃって。」
女性の声は弾んでいた。
「どちらがが引っ越して来たんですか?」
「私達がこの団地に住んでいたんです。」
この広い団地は数年前一画が壊され、その跡に一戸建てが出来ている。そこ