さんが書いた連載運動の日記一覧

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「自分の事は後回し」

白い幕が張りめぐされている。閉店!去年の暮れに?! もう歩いて行ける距離に本屋はなくなった。店名にある『未来』が、もうないと言われたようだ。総武線最寄駅のデパートにある大型書店に行くしかない。直ぐに引き返した。行く時も帰りも速足だった。 丁度踏切の処だった。杖を突いた女性が片手に買い物をして来たらしいビニール袋を提げてゆっくり歩いている。見掛けた事のある女性だ。 「この先のスーパーの方です…

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「歩いていると」

実は嬉しい事が幾つもあった。 雪のために歩いて出勤した日の帰り道、幹線を外れると舗道にはまだ雪がかなりあって歩きにくかったが道の脇に河津桜を見つけた。 蕾が膨らんでいて、ソメイヨシノにしては早過ぎる。河津桜だ。 丁度擂鉢の底になっているような坂に差し掛かった時だった。転ばないよう気を付けようと思っていたら、前から一組の男女が歩いて来た。私と同世代だ。 「わっ、久しぶり〜」…

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「老いを自覚したらどーすんの?」:『高齢者講習』続編

実は5日に自動車学校で受けた『高齢者講習』は、バイクでは行かなかった。雪の天気予報だったからだ。 白髪の男性講師が老人特有の滑舌の悪い話し方(この時はまだ老人に対して冷たい)で説明した。直ぐに視力検査になった。講師は動体視力も測るが、これは自分が思っている以上に体は衰えている事を自覚してもらうためのものだと言った。 両目で見ている機械の中に視力検査の丸い輪が出て来る。その中に一箇所切…

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「冬バテ」

「ダルいです、済みませんが私に付き合ってもらえませんか?運動すると疲れが取れるんです」 「いいよ。何するの?」 爺様は食事以外はほぼ一日中自分の部屋にいて、テレビを見ているか寝ている。 「スクワットです」 爺様は車椅子で手摺に向かう。私も手摺に捕まる。 「爺様、何回を目標にしますか?」 「20回」 二人並んで「1、2、3、4」と数えながらスクワットして行く。 爺様…

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「もう行くの?」

また男性だ。若くはない。次に来たのも男性。走るのは男性ばかり。 スカイツリーが霞んでいる。堤防は2階建ての屋根より高い。海からの距離が書かれた表示板がある。10キロ超。堤防の端が見たい。 ずっと走っていない。先ずは速歩き。途中一人だけ女性を見た。走る姿も走り方も全然カッコよくない。あれでいいんだ。 広い河川敷には野球をしている子供達とそれと同じくらいの大人がいる。ここを数十万人の人が埋める…

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「羽生クンを見てからウォーキングに出た」

後ろの男性が続いて来ない。私の祈りが終わるのを待っているのか。丁寧に孫の事を祈ってから脇にどいた。すると男性は鐘を打った。 私は男性には一瞥もくれず階段を降りた。見たら悪いような気がした。次は本殿の左右にある社に同じように御賽銭を上げ鐘を突いて祈った。 池の方に回った。途中三重の塔の前で爺様にすれ違った。爺様は直ぐにまた帰って来た。御百度参り的な事をしているのだろうか。爺様はもう一度本殿に向…

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「お久しぶりです」

半袖一枚で正解だった。雲一つない青空は台風一過に相応しい。緊急事態宣言が終わっても特段生活に変わりはないと思っていたが、どことなく解放感がある。 朝、市民の森に行った。台風はドングリの実を沢山落とした。それも緑色。 歩き始めると直ぐにハーモニカが聞こえた。畑の隅で女性が二人テーブルに座っている。楽譜立てに楽譜がある。私と同世代の女性が、80代くらいの女性に教えているのだ。周りはニラの花が取…

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「仲間と走った小径を」

リーンリーンともガシャガシャとも形容し難い鳴き声が、辺り一面から聞こえて来る。 以前見た時より巨木に感じるのは、藪が綺麗に刈り取られているからだろうか。歩き出すと直ぐに枯れ草の香ばしい匂いがした。 家を出て直ぐに腕時計を忘れた事に気付いたが、取りに帰るのは面倒だった。一周800メートルあり、一周の時間を測っていた。 一周は歩いた。カラスがまるで朝礼をしているように近くで鳴き交わしているのは…

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「コロナのせいにせず」

「ああ、これこれ。この感覚」 自転車を停め小径に入った途端、ふかふかの大地が迎えてくれる。 コロナで休業していた公民館が再開しても、週一回のジョギングクラブには行けなかった。もうこのまま辞めてもいいと思っていた。 そんなところに仲間からメールが来た。この仲間から離れるのはもったいない。 筑波山にはケーブルカーで上り、男体山と女体山の間を歩いただけなのに、筋肉が全くない感じがしたのも背中を…

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「始めてペイペイを使いました」

雀の大群が飛び立った。一体何処にこんなにいたのか。この田圃には落ち穂でも沢山あるのだろうか。カラスもいる。10羽程。こちらは私が近づいても逃げない。さすがにカラスの直ぐ傍は気持ちのいいものではない。 我慢の限界。近所を歩いたり、食料品の買い物に出掛けるだけの毎日に終わりが見えない。 昔怪我で2ヶ月入院した事がある。車椅子で過ごしたが、一ヶ月になる頃、脱走したくて仕方なかった。無論しなかった…

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「富士が見たくて」

富士が見たい。私はいつもと反対回りに歩き出した。走った。早くしないと暗くなる。 まるで『走れメロス』だ。続いて「間に合う間に合わぬは問題ではないのだ。私は何だか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。」 突然右手から女性が両手で何かを持って現れた。鍋だ。一体何処に行くのだろう。 「娘のところに豚汁を届けるんです。この前主人に持って行ってもらったらこぼされちゃって。」 女性の声は弾ん…

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「特技は徘徊」

歩くつもりが、直ぐに走り出した。どうした、今日は一日家にいたから、全く準備運動していない。 手袋が温かい。昨日風を通さないものを買った。体は直ぐに熱くなるが、手はいくら走っても冷たい。 ゆっくりでいい。一周1.4キロの周回コースには行かない。もうタイムなんて気にするな。近所をうろうろでいい。楽しめ。特技は徘徊。 午後遅く外に出た。一日中強風が吹き荒れ、家の前には落ち葉が集まっている。掃除…

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「緊急事態宣言が出ても」

冷蔵庫の野菜室がガラガラになって来た。残るは白菜、玉ねぎ、ジャガイモニンジン下仁田ネギ程度。冷凍庫も3分の1くらいになった。 上段には蛸がまだしっかりあるものの、残るはナマスと黒豆昆布巻きくらいだ。タッパーが一つずつ消えていくのは嬉しい。 正月三が日くらいはスーパーに行かないことにしようと軽い気持ちで始めたが、昨日まで5日間行ってない。 午後になって化粧して着替え、外に出た。一時間は歩け。…

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「今手にしているものを簡単に手放すな」

久しぶりに市民の森に行った。自転車が2台停まっている。 一人で歩き出す。木々の向こうに抜けるような青空が広がっている。随分見晴らしもいい。木の葉が落ちたのだ。小径も幅広い。森は市の管理だから草刈りをしたのだろう。 烏が煩い。蝉の声も秋の虫も聞こえて来ないと、ヤツラがのさばるのか。二周目からは走りを入れてやる。 小学校の体育館から部活動をしているらしい声が聞こえて来る。もう冬休みに入ったのだ…

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「手が冷たい」

手袋をして来るんだった。戻るのは面倒だ。一周は速歩で歩こう。 洗濯掃除に料理で、一日中家の中で過ごした。夕方になり運動の格好をして外に出る。 クリスマスが近いのにイルミネーションが少ない。毎年この辺の家は数軒綺麗なのに。 保育園に来た。この時期は真っ暗になってから子供を迎えに行ったが、泣きたくなったものだ。門の処に男性がいる。何やら押している。暗証番号で門が開くのか。 子供達もこんな時…

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「汗が出ない」

まるで学校の朝の会だ。カラスが数羽、大きな鳴き声でやりとりしている。蝉が鳴いていたのはついこの間だが、その頃は聞こえて来なかった。 リーンリーンと鳴くのは秋の虫。こちらは思わず聞き耳を立ててしまう。 久しぶりだし、足には昨日の仕事疲れがまだ残っている。無理してはいけない。早足早足。 小径の脇にヒガンバナが咲いている。薄紫色の花はニラだろうか。 一周目から走りを入れようかと思ったが抑えた。…

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「ゼロに戻るのだ」

遅れたくない。遅れるのはここ、坂だ。先頭が走る後に続け、小径の右側だ。二番手が左側を走るから私はその後に続いていた。 離れずに続いた。今度はこのカーブだ、苦しい。足を上げて大幅に。あと少しだ。よし、続いている。 三人で歩く。あと二人はそれぞれのペースで走っているはずだ。何周走ったかを木の枝を置いているから、もう来ているはすだと言う。 どうやって数えるかという話になった。私は腕時計、一周8分…

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「豚もおだてりゃ木に登る」

「やったぁ!」 朝起きてこんな花を見たら、誰だってバンザイだ。直径20センチはある大輪のこの花が沢山蕾を付けた時はもう嬉しくて仕方なかった。 ところが徐々に蕾は黒くなり、次々枯れて行った。葉っぱもくるっと巻き込んだようになったものがあり、その葉と枯れた蕾を一つ一つ取り除いた。ダメ元で消毒液を吹き掛けた。来年のために。 それが新たに蕾を付けた。期待してはならぬと抑えていたが、最近になって一輪咲…

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「思いがけない話」

一時間でいい。もうこれで止めよう。そう思ってスタート地点に行くと仲間もいた。 いつものように集まって話し始めると、一人で歩いて来た長身の男性が声を掛けて来た。 「皆さんお元気ですねぇ。お幾つなんですか?」 「##歳」 仲間が答えたが、私は聞き取れない。 「えっ?」 「79歳」 いつも、一緒に運動しているのに知らなかった。来年は80歳! 「72歳」 「私は66歳です。貴方様は何歳なんですか?…

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「泣く代わりに走る」

蝉の鳴き声は朝と変わらず四方八方から降って来る。以前よりカナカナカナが増えている。田舎では日暮らしと呼んだこの蝉は、静けさを際立たせる。 4時になるのを待って市民の森に向かった。午前中に孫宅から帰り、ずっとゴロゴロしていた。まだまだ暑い。 十㍍は軽く越える高い木々や草が生い茂り、烏や蝉や秋の虫が鳴く森は、生き物に満ちている。 気を付けないとミミズや蝉の死骸を踏んづけてしまう。この大地の中に…