子供の頃の約束

 辻堂魁の「介錯人」を読了した。著者は時代小説作家である。本書は、武士の切腹の介添役である、介錯人の別所龍玄を主人公とした、時代小説の連作短編集である。
 主人公の龍玄は二十二歳であるが、五歳年上の妻の百合と、生後一年の娘の杏子(あんず)がいる。別所家には他に、小金貸しを生業とする五十五歳の母屋の静江と十六歳の下女のお玉がおり、一家は池之端の近くの無縁坂の講安寺門前にあるお静の店で暮らしている。
 龍玄の祖父の弥五郎は、摂津高槻藩の永井家に仕える別所一門であったと称しているが、事情があって十八歳歳のときに江戸へ下り、倉持安左衛門の食客になっている。安左衛