「辻堂魁」の日記一覧

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辻堂魁 の 寒月に立つ 風の市兵衛 弐

★3.4 第弐部9作目。 舞台紹介の地図からは新潟の抜け荷の話か道中ものかと期待したのだが・・。越後津坂藩の継嗣をめぐるお家騒動である。 津坂藩を探っていた返弥陀ノ介が影の組織に襲われ生死をさまよう。兄・信正に呼ばれた市兵衛は仇を討つこと決意。 物語は10年前、藩主の密命で側妾に生まれた男児を連れて江戸に住む夫婦がいた。向島南の本所側で茶屋を営む主の清七が発見したのが水面に浮く弥陀ノ介。業平…

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辻堂魁 の 乱れ雲  風の市兵衛 弐

★3.3 第弐部8作目。 文政8年、市兵衛41歳のまま。今回は時勢を反映し江戸市中に致死率の高い流行風邪が蔓延。 市兵衛は1500石の旗本ながら金貸しをやっている笹山家の貸し金取立ての助役に雇われた。18歳の鬼渋の息子・良一郎は北町に無足見習いに出ている。 5千石の広川家に婿養子で入った男の賭場での借金問題と、良一郎が見習い仲間と酔って賭場で起こした騒ぎが故買商「備前屋」の悪事と繋がる。 …

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子供の頃の約束

 辻堂魁の「介錯人」を読了した。著者は時代小説作家である。本書は、武士の切腹の介添役である、介錯人の別所龍玄を主人公とした、時代小説の連作短編集である。  主人公の龍玄は二十二歳であるが、五歳年上の妻の百合と、生後一年の娘の杏子(あんず)がいる。別所家には他に、小金貸しを生業とする五十五歳の母屋の静江と十六歳の下女のお玉がおり、一家は池之端の近くの無縁坂の講安寺門前にあるお静の店で暮らしている。…

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辻堂魁 の 残照の剣 風の市兵衛 弐

★3.3 第弐部7作目。「義民が駆ける」の前哨戦ともいえる川越藩の国替え運動にからむ物語。 新両替町の両替商・近江屋から宰領屋の矢藤太へ川越の話が持ち込まれた。閉門中の藩士・村山永正と娘の早菜を守り江戸へ招くこと。国替え運動に浪費する藩政を批判したことが藩主の不興をかったよう。 松平大和守家は15万石の御家門、姫路から実録の低い川越に移ったことが不幸。家斉の第24男・紀五郎を養子に迎え国替え…

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辻堂魁 の 黙(しじま)

★3.7 介錯人シリーズ。龍玄23歳、娘の杏子も2歳。 「妻恋坂」では「母ちゃん、堪忍」と言った修行僧は父親の罪により15歳になって遠島か出家かを選ばざるをえなかった幼馴染の十之助。 「破門」では幼い龍玄が10歳で入門した安永6年(1777年)から16歳頃までの話で、一刀流の大沢道場で剣の才能を見せるまで。 「惣領除」は家を守るために息子を自裁させたが、冤罪と気付き龍玄に己の介添役を依頼し…

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辻堂魁 の 希みの文 風の市兵衛 弐6

★3.3 第弐部6作目。 今回は前2作に登場の難波新地の色茶屋「勝村」の遊女・お茂からの依頼。幼馴染のお橘を襲った犯人を突きとめてくれというもの。 被疑者が大坂東町奉行の近習らしく探索が止まっている。今回、遠国奉行などに臨時に仕える武家奉公人が紹介される。被疑者の父親がこの奉公人で、1年ごとの契約で町奉行に家老として仕えている。他の用人、給人を含め22の家来衆すべてをこの男が集めている。家老は…

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辻堂魁 の 天満橋まで 風の市兵衛 弐5

★3.4 第弐部5作目。 前作は良一郎の幼馴染・小春の仇討ちの話だったが、今回はその小春が世話になった長屋のお恒の息子・豊一が島崎藩蔵屋敷で殺された。 どうやら蔵米の取り付け騒ぎと関係あるらしい。市兵衛が頼ったのは前回世話になった朴念、情報を集めそれを欲しがる者に売るという変わった商売の男。 調べる内に島崎藩の蔵屋敷で〈帳合米取引〉に手を出し、大損の穴埋めに蔵米の空米切手を引き当て、帳尻あわ…

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辻堂魁 の 縁の川 風の市兵衛 弐の4

★3.5 第弐部4作目。文政8年(1825年)を迎え市兵衛も41歳である。 北町奉行所定町廻り同心・渋井鬼三次の息子・良一郎が幼馴染の小春と大坂へ発ったらしい。突然のことだけに単なる欠け落ちではない。小春には幼い頃別れた姉がおり、大坂の苦界で命を終えた知らせが届いていた。 鬼しぶの頼みに市兵衛は大坂の堂島にある米問屋・松井に向う。そこは市兵衛が二十余年前に算盤を学んだ店、主だった松井卓之助は…

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辻堂魁 の 介錯人

★3.5 「月夜行 風の市兵衛4」に登場し、スピンオフ作品として文庫「介錯人別所龍玄始末」から4年、今度は単行本で続編が出るという珍しいパターン。 時代は寛政元年(1789年;天明の大飢饉や内裏炎上などのため改元)のこと。4つの連作短編。22歳の別所龍玄は奉行所牢屋敷の首打ち役同心の手代わりを生業としている。立場上は浪人ではあるが、龍玄の腕が評判となり、武家の秘かな自裁に介錯人を依頼されている…

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辻堂魁 の 銀花 風の市兵衛 弐3

★3.3 第2部3作目。 小弥太と織江が引き取られた北最上藩でお家騒動が勃発。2人の叔父に当る金木脩が柳橋で襲われ、国許では本家の中原恒之が城中で斬殺された。敵対する宝蔵派が改革と称し藩主に取り入って、中原派の一掃を狙ったのだ。 市兵衛は北最上へ向かう。宝蔵派は、かつて家康が中川家に許した入会地の権利を藩に返上させ、紅花栽培を目論んでいた。 川浪家遺児による仇討という捻りはあったものの、途…

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辻堂魁 の 修羅の契り 風の市兵衛 弐

★3.3 第2部2作目。 市兵衛が小弥太と織江を連れて雉子町から土もの店の永富町の2階屋に引っ越してきた。今回の本来の仕事は旗本・大久保東馬家1200石の台所収支勘定をつける仕事。だが仕事はなく用人の大木駒五郎が取り仕切っている。どうやら大久保家を食い物にする大木のたくらみか。 小弥太と織江が誘拐された、父親の信夫平八とは修羅の契りの仲とする元締め・多見蔵の仕業。結局2人の子は国許の祖母に引…

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辻堂魁 の 暁天の志 風の市兵衛 弐

★3.5 第弐部の初作で21冊目。 文政7(1824)年、40歳の市兵衛は奈良吉野山にいた。金峯山寺の地下老分(じげおいぶん)・村尾一族の119歳の大婆のお告げで、江戸に住む唐木市兵衛が呼ばれたのである。吉野に都をおいた後醍醐天皇に仕え、その陵墓を守る地下人一族である。 市兵衛の母方の祖母の名は梢花といい大婆・篠掛(ささかけ)の娘だった。祖父・唐木忠左衛門は若かりし頃、興福寺で剣を修行し、仏…

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辻堂魁の「架け橋  風の市兵衛20 」。

★3.3 シリーズ20作目。 毎回目先が変わって面白い、今回は海洋もの。 市兵衛のもとへかつて返弥陀ノ介といわくのあった女・青(「夕影」で登場)から助けてくれとの使いが来た。 青は弥陀ノ介の子を身籠っており、海難事故に会っていた。 相模、須賀湊の廻船問屋の不動丸と女海賊「東雲お国」との海戦が今回の最大のテーマ。 弥陀ノ介は青と祝言を挙げることに。市兵衛の縁談は結局は破談、相手からの断わり…

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辻堂魁の「遠き潮騒 風の市兵衛19 」。

★3.3 シリーズ19作目。 深川の一膳飯屋・喜楽亭の近くで干鰯・〆粕問屋の主が刺殺された。鬼渋は犯人が銚子へ逃げたとつかみ捕縛のために旅立つ。 そして返弥陀ノ介は懇意の武家の消息を絶った倅を探す旅に。目付の兄・片岡信正は市兵衛に弥陀ノ介の支援を依頼する。銚子湊の幕府務場が絡む密米の噂があることも告げる。 ここまでで読者に3つの話が繋がるのもその結末もだいたい見えてくるのが残念。話の構成を…

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辻堂魁の「待つ春や 風の市兵衛18」。

★3.3シリーズ18作目。 舞台は北武蔵の忍田領の阿部家。公儀御鳥見役と下役の惨殺から物語は始まる。 阿部家の旧家臣から護衛を依頼され忍田へ向かう市兵衛は藩政を壟断する勢力との対決に巻き込まれてしまう。 関八州の農村社会の変貌がテーマ。幕府は農間余業を抑制してきたが、文政から天保にかけ関八州の農民の3割が商人または職人に変わったとある。 文政7年(1824年)の年が明け、市兵衛も40歳と…

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辻堂魁の「うつけ者の値打ち 風の市兵衛17」。

★3.5 シリーズ17冊目。 東北の国許で藩の専売に従事していた男が、上士に誘われて不正に手を染めた。 露見しそうになって一人ですべての罪を背負って江戸へ出たが・・・。 国許と連絡をとらないという条件で、残った父母と妹の扶持は確保するという話を信じていたのだが・・・。 国許から幼馴染が出府してきてすべてが明るみに。 男はささやかな所帯をもったばかりで、生後半年の息子もいたのだが・・・。…

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辻堂魁の「秋しぐれ 風の市兵衛16」。

★3.5 シリーズ16作目。 今回は珍しく兄の片岡信正も弥陀ノ介も登場しない。鬼しぶと柳井宗秀も「喜楽亭」でちらっと市兵衛に示唆を与えるのみ。 しかも市兵衛は久しぶりの算盤侍の稼業に。御徒組旗本の私的借金の軽減が依頼主からの頼み、相手は札差。 交渉を有利に導こうと札差の3男・順吉に御徒の株を紹介したことから、話はこの3男が惚れている水茶屋の娘・お秀へと、更にはかつて江戸を追われた名関脇・鬼…

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辻堂魁の「夕影  風の市兵衛15」。

★3.3 シリーズ15作目。 今回は舞台を江戸の東、葛西に移しての物語。 旗本家の依頼を受けて市兵衛が探索に出かけるという短期の仕事。その地は土地のやくざが勢力争いの真っただ中、更には普化僧を束ねる小金の一月寺が君臨している。 物語は青という過去に因縁のある唐から来た女を、弥陀ノ介が深川北松代町の地獄宿で見つけたことに始まる。青は深手を負って西利根村のやくざを頼って身を隠す。 そこには吉三…

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辻堂魁の「狼  仕舞屋侍 2」。

★3.2  九十九九十郎は小柳町の裏店に越して7年、小人目付を退いたのは部下であった男を己の不手際で亡くしたことによる。 その息子・龍之介が訪ねてくるようになった、まだ8歳である。その龍之介が柳原土手道でお七に剣術を教えている。 お七が奉公先に九十郎を選んだのは、剣術を習うことなのだが、その目的は明らかにされてはいない。 今回も一話完結で、仕舞屋に持ち込まれた武家の不義のもみ消し仕事にまつ…

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辻堂魁の「介錯人別所龍玄始末」。

★3.3  新シリーズ初巻。4つの連作短編。 別所龍玄は奉行所牢屋敷の首打ち役同心の手代わりを生業としている。 立場上は浪人ではあるが、龍玄の腕が評判となり、武家の秘かな自裁に介錯人を依頼されることが多くなった。 自裁せざるを得ない武士との触れ合いを綴ることが目的なのか、この巻のみではわからない。 凄惨な生業ではあるが穏やかな家庭を持ち、童顔の22歳で丈も5尺5寸しかない。介錯の依頼人は…