【短編小説】本能寺の変、朝廷黒幕説

(1)
天正2年(1574年)3月のこと、織田信長は正親町天皇(おうぎまちてんのう)の特別の許しを得て、東大寺正倉院に秘蔵されている、天下の香木蘭奢待(らんじゃたい)を切り取った。
その折に信長は半分を天皇に献上し、さらに蘭奢待の香りを染み込ませた黄金の扇と、金粉を散りばめた洛中洛外図屏風を、奉納することを約束した。

しかし当時の信長は、将軍足利義昭との争いや、大阪石山本願寺との攻防戦、さらに松永久秀や荒木村重の反乱、甲斐の武田勝頼討伐戦などで東奔西走して忙しく、蘭奢待の献上は済ませたものの、肝心の黄金の扇と屏風のほうは、なかなか奉納することが出来なか