熱狂と名付けられたトランペット

 中村文則の「逃亡者」を読了した。著者は芥川賞作家で、純文学畑の出身であるが、大江健三郎賞を受賞した「掏摸」の様に、ミステリー風の作品もあり、最近はミステリー風の作品が多くなっている。本書は、熱狂と名付けられた悪魔のトランペットを持って逃走する男を巡る、不条理な物語である。
 物語は主人公である逃亡者が、ケルンの安アパートで謎の男に襲われるところから始まる。その男は逃亡者に、第二次世界大戦中にフィリピンで日本軍を鼓舞し、とある作戦を成功させたトランペットを渡せと要求する。ファナティシズム(熱狂)と名付けられたそのトランペットは、通称「悪魔の楽器」と呼ばれ