連載:おとなの絵本

「かみなりこぞうの涙」


「どーん」
 浴衣(ゆかた)姿の若者たちが、天を見上げる。

    「僕だけ一人ぼっち」
     かみなり小僧が、下界を見下ろす。

「じゅん」
 打ち上げられた最初の花火が、かみなり小僧の涙で消えた。

 もう一粒
「じゅん」
 次の花火も、途中で消えた。

 また一粒
「じゅん」

「いやだー、夕立だ」
「せっかくの花火大会なのに」

 あちこち浴衣が揺れている。



     かみなり小僧は、涙をこらえた。

     ひとりぼっちの、かみなり小僧

     歯を食いしばって涙をこらえた。


  空は、また、晴れてきた。

カテゴリ:アート・文化