船場で起こった連続殺人事件

 芦辺拓の「大鞠家殺人事件」を読了した。著者はいわゆる新本格派のミステリー作家で、ミステリーに対する造詣の深さ、博覧強記で知られる。本書は、太平洋戦争終戦直前に、大阪船場で化粧品問屋を営む大鞠家で起こった連続殺人事件を描いたミステリーである。
 船場の化粧品問屋大鞠百薬館は、大鞠万蔵が創業したのだが、その問屋が発展するに当たっては、万蔵の妻の多可の寄与が大きかったと言われている。そして、物語は明治三十九年に始まる。万蔵と多可の長男で、まだ学生だった千太郎は、丁稚の鶴吉を連れて、難波のパノラマ館に、日露戦争の旅順総攻撃のパノラマ見物に行き、行方不明になって