青山文平の「底惚れ」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、連作短編集「江戸染まぬ」所収の同タイトルの短編を長編化したものである。
　物語は主人公の「俺」の一人称の視点で語られる。人宿からの武家屋敷の一季奉公人の俺は、今まで度々、主家の醜聞を「中番屋」に売って金を稼いでいた。中番屋は、買った醜聞をネタに、その主家を恐喝するのである。ある時俺は、相模から奉公に上がった２４歳になる下女の芳の宿下がりの旅に付き合うことになる。芳は、莫大な藩の借財返済のために、若くして隠居した