天衣無縫の正体

 北村薫の「中野のお父さんの快刀乱麻」を読了した。著者は直木賞作家のミステリー作家で、「日常の謎」と呼ばれるジャンルを得意としているが、詩歌、一般文学への素養も深くエッセィ作家、アンソロジストとしても知られている。本書は、体育会系の出身で文芸誌の編集者である娘田川美希が巡り合った文学に関わる様々な謎を、中野に住む、定年退職を間近に控えた高校の国語教師である父親が解くという、シリーズ第三作の連作短編集である。
 「大岡昇平の真相告白」:美希が小説家の原島博と話をしていると、話題は三島由紀夫の「美徳のよろめき」、菊池寛の「真珠婦人」の「よろめき夫人」から、夫