連載:社長と檸檬

小説  社長と檸檬(完) 

 カーテンを開けると、琵琶湖に雪が舞っている。利休鼠のような鉛色の湖に真っ白な雪が斜めに落ちてゆく。ひんやりとした空気がガラスを通して胸にあたる。
 
17階の窓から下を覗く。雪は吸い込まれるように地上に落ちてゆく。 けだるい気分のまま、私は雪の落下を眺めていた。
「何を考えているの」
 声がして振り返ると、彼が手招きをした。うなずいてベッドにもどる。

「結婚しよう」
「こうなったから?」
「いいや、ずっと考えていた。君となら楽しい後半の人生が送れる、そう感じていたから」

 私は一夜を過ごすことになんの不安もためらいもなかった。こうなるまで、短期間で