「恋愛小説」の日記一覧

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恋愛小説を脱稿

猛暑の夏が過ぎ去り、読書の秋、食欲の秋とは言うが、秋は少し憂鬱な季節でもある。 地域の同人誌A誌の締め切りは、5月末だったから、既に出版記念会は終わって、別のB誌の投稿作品がなかなか決まらずに、悩んでいた。 今回はどうしようと思って、恋愛小説に挑戦しようと、試作していた。 書いたことのないジャンルのものは止めればいいのにと、もう一人の私がささやいていたが、初めてでも挑戦すること…

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志賀直哉「暗夜行路」の姦通(古川裕佳都留文大教授の)

 今日は、志賀直哉「暗夜行路」の後半の話で、姦通についての主人公・時任謙作と、妻・直子の姦通を巡る話を聴いた。  暗夜行路」は、完結するまで、17年かかった。 長篇が完成に長年月を要したのは、後編第4の部分ができるのに異常にてまどったからである、と言う。  「暗夜行路」が完成し、文芸評論家の、小林秀雄、河上徹太郎は共に、「暗夜行路」を恋愛小説だと評した。   不義の子、出生の秘密を持って産…

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小説 蒼鷺 (4)

「恋していない私がいるのは罪だと思う」 優子は離婚を決意した一番の原因はこれだという。夫に恋していない妻、結婚していない榮子には意味は理解できても、実感は伴わない。 恋をして結婚したのに、愛は冷めていくのだろうか。脳裏に逢瀬を重ねた彼との時間が甦る。 「先生、新しい企画の事で、大沢さんからお電話くださいとのことです」 留美子の電話にはっと我に返る。 この数日、気分がすぐれない。出会いと別れ、…

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小説 蒼鷺(2)

デパートの一角を埋める創作花の製作に追われる毎日が続いた。 優子の事が気がかりであったが、企画書の作成や、素材のデザイン、調達など、時間はいくらでもほしい。 榮子が自分の時間さえもけずってそれに没頭している時、病院の優子から電話が入った。 「会いたいの」 優子が搾り出すような声で受話器の向こうであえいでいる。 「いいわ。一段落したら飛んで行くからね」 そう答えて受話器を置いた。心がざらついて…

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小説 蒼鷺(1)

高野川河畔の桜並木は満開の時を迎えていた。 早朝、散歩する人の影もどんどん多くなっている。一人歩く人、少し間を開けて歩く夫婦、軽やかにジョギングしながら走る若者。 いずれも皆、薄紅に続く桜並木を見上げながら、感嘆している。 解けた片方のウオーキングシューズの紐を踏んで足がもつれたのと同時に、ポケットの携帯電話が鳴った。後から来る人の邪魔にならないように、堤寄りの石のベンチに腰掛けるとスマホに耳…

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小説  社長と檸檬(完) 

 カーテンを開けると、琵琶湖に雪が舞っている。利休鼠のような鉛色の湖に真っ白な雪が斜めに落ちてゆく。ひんやりとした空気がガラスを通して胸にあたる。   17階の窓から下を覗く。雪は吸い込まれるように地上に落ちてゆく。 けだるい気分のまま、私は雪の落下を眺めていた。 「何を考えているの」  声がして振り返ると、彼が手招きをした。うなずいてベッドにもどる。 「結婚しよう」 「こうなったから?」 「…

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小説  社長と檸檬(4) 

 哲学の道の橋の上に立った。   桜の枯れ枝が雪色に染まっている。少し青みがかった白。車道は轍の跡が無数についているが、遊歩道の哲学の道は丸みを帯びた積雪の道がまだ踏まれずにあった。ブーツの縁すれすれの雪の深さである。私は少しためらっていた。 「おや、いたずらっ子がいますね」  その声に振り返ると、社長がにこやかに立っている。 「そういう僕も新雪に惹かれてここへ来たんですが……」  心を見透…

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小説  社長と檸檬(3) 

 四条河原町西入北側に「京料理・田ごと本店」はある。打ち水をしてしっとりと濡れた石畳の路地の奥に、ちいさな池がしつらえてあり、緋鯉が二匹優雅に泳いでいた。  待ち合わせの時間より三十分早くついた私は、小部屋に案内された。昨日のうちに予約を入れておいて、奥まった部屋を用意してもらっていた。畳の部屋に掘り炬燵が切ってある。ちょうどテーブルに腰掛けるような感じの楽な姿勢で、和室を楽しむ事ができる。 …

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小説  社長と檸檬  (2)

 クリスマスソングが、スーパーの中に賑やかに流れている。  一週間前から、いろいろな国からのシャンパンが木箱から出されて、並べられていた。その中に、有名な「ドンペリ」が真っ黒な瓶に金の封印をして、安いお値段のシャンパンの中に鎮座していた。 見る人は「ドンペリ~」といいながら、ため息をつき、横の2000円弱のシャンパンを買い求めていった。ドンペリ、12000円、これでもお安いほうのドンペリらしか…

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小説  社長と檸檬(1) 

 檸檬15個、オレンジ2個、赤りんご3個、バナナ一房、大蒜一袋、そして米酢一瓶。 まあ、なんという取り合わせ、そう思いながら、私はレジのキーを打つ。 かごいっぱいの量のため、スーパーの大の袋2枚を押し込んで、レジの前に立つお客に差し出した。合計金額1876円。  お客は新札の一万円札を出して、 「すみません」と一言小さく呟いた。 「いいえ」と笑みを浮かべてそれを受け取り、レジの中から釣銭8…

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時代を感じる小説 井上靖「憂愁平野」

若い頃、(20代)とても人気があった本です。先に「氷壁」を読んでこの作家の本を次々読んでいました。 「氷壁」は登山のザイル事故をテーマにしたとても良い本だったと思いますが、「憂愁平野」は恋愛小説と言う他は覚えていないので図書館で探してみました。あったのですが何と広辞苑より分厚い全集になっていてとても持ち帰れないので丸善へ、古すぎてなかった。結局netで古本を買いました。普通の文庫本の倍以上の厚…

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村山由佳著『ダブル・ファンタジー』読了

リアルな性描写が苦手な方には、お勧めできないぐらい、その手のシーンが多い大人の恋愛小説です。 主人公の奈津は、ちょっと性欲の強い既婚女性。 売れっ子のドラマ脚本家であり、その才能を最大限に活かすために、夫は専業主夫を買って出ています。 都心から若干離れた埼玉の町で、家庭菜園で野菜を作りながら家事全てをこなす夫。 主人公の奈津は、そのことにはもちろん感謝しているのですが…。 専業主夫と…

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ブックチャレンジ5冊目。高橋治著『風の盆恋歌』

 1冊くらいは恋愛小説をと思い、とするなら立原正秋か高橋治の中からと考え、標記にした。  読む本は圧倒的にノンフィクションが多いけれど、恋愛小説も嫌いではない。若い頃は専ら井上靖だった。『ある落日』『満ちてくる潮』『氷壁』などなど、文庫になっているものはほとんど読んでいる。  何故好きか、悪人が出てこないから。私の恋愛観は井上靖によって形成されてきたと思っている。  井上靖の恋愛小説には寝屋の表…