連載:介護

「婆様の文庫本」

婆様はとても美味しそうに御飯を食べる。
「美味しいですか?」
「美味しいわよぉ、ここは食事が美味しいのよぉ」


居室掃除の日だった。一緒に掃除できる人はこのユニット(グループホームはユニット二つまで、9人×2)にはいない。

婆様のクローゼットを開けると、隅に文庫本が積んである。それもどけて掃除機をかけた。一冊一冊が分厚い。歩く事も寝返りを打つ事も出来ない婆様と文庫本が結び付くまで時間差があった。

「山本一力の本がありますけど○○さんが読んだんですか?」
「そうよ、時代小説が好きなのよ」

私は他の部屋の掃除を続けた。帰ったら読もう、『深川かご』を読