『阿部一族』 犠牲の精神が生んだ矛盾

 鴎外の『阿部一族』こそ、武士道精神の矛盾を突いた問題作だと、かつて国語の先生が話てくれた。
どの先生なのかはすっかり忘れてしまったが、
鴎外ならば、この本を是非読もうと思ったのも、その先生の感想に影響された事は確かだ。
縁あって熊本に夫が赴任した時、
私は是非『阿部一族』縁の土地を訪ねようと思い立った。

そこは、「北岡自然公園」の名称で知られていた。
鹿児島本線の熊本駅を北に向かった丘の一角にある。
小説に登場する細川忠利と殉死した家臣の墓が居並ぶ風景は壮絶そのものだった。
中でも、その張本人として生きた阿部弥一右衛門の名が刻まれた墓前では、
この本