狼男だよ

 馳星周の「月の王」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や、犬等の動物をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、太平洋戦争前夜の魔都上海で、駆け落ちした日本の家族令嬢を巡る日中の特務機関と、狼、龍、熊の化身達の争いを描いた、一種の伝奇小説である。
 物語の舞台は1930年代の上海である。帝国陸軍特務機関所属の伊那雄一郎は、実質的な機関長である田辺少佐から呼び出される。少佐の説明では、フランスに留学中の一条侯爵令嬢の一条綾子がフランス人の男性と駆け落ちをして、海路上海に向かってお