隠し伝えられた命令

 青山文平の「やっと訪れた春に」を読了した。著者は時代小説作家で、53歳でデビューし、史上2番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、藩主交代制度を廃止した分家の当主の暗殺の謎を描いた時代ミステリーである。
 近習目付とは藩主に近侍し、藩の実態を報告し仕法の献策を行う重要な役目であり、本来は一つの藩には一人しかいないにだが、ある特別な事情により、物語の舞台となる橋倉藩には近習目付が二人いる。その理由は、橋倉藩では代々藩主を岩杉本家と分家の田島岩杉家から交代で出す仕来りがあり、現藩主と時期藩主のそれぞれに近習目付が付くからである。現