阿呆なエロ大名を、反省心もある大名として描いた、池波正太郎の「晩春の夕暮れに」

 この短編小説のモデルになったのは、浜松6万石の井上正甫である。

 彼の父で前藩主の井上正定も阿呆だった。正定は老中にもなれる家柄だけを誇りに、何の力もないくせに身分卑しい母から生まれた将軍 徳川吉宗に抵抗した。吉宗は父がお風呂番をしていた力持ちの女にいたずらして生まれてしまったという。だから幼少の時は母子ともに家来の家に引き取られ、家来の子として育てられたが、兄2人が次々に病死するという運命のいたずらで紀州藩主になり、さらには将軍にもなってしまったのである。しかし、吉宗は誰もが知っている通り、文武共に優れた名将軍である。

 吉宗が