「読書紹介」の日記一覧

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熊谷達也の短編集「懐郷」の中の「磯笛の島」

 この短編集は、時代の変わり目であった昭和30年代をひたむきに生きた女性たちを描いた7作品だが、  「磯笛の島」はその巻頭を飾っている物語だ。  ついでだから紹介するが、「オヨネン婆の島」は伊豆七島の中でも僻地であった御蔵島の本村(里村)から分村した南郷が廃村になる、その最後の一家族の祖母と息子夫婦・働き盛りの孫の物語である。  「お狐さま」は仙台出身の教員の妻が宮城県の田舎で都会との地域…

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垣谷美雨の病棟三部作

 垣谷美雨という作家の小説はどれでも意外性があり、笑ってしまう場面があり、泣かされ、感動させられるが …  病棟三部作(小学館文庫)はまた新たに感動させられ、感心させられ、泣かされた。  本来は「後悔病棟」「希望病棟」「懲役病棟」の順なのだが、物語はそれどれ独立しているのでどの順でも良いという。私は図書館の開架書棚で偶然に見つけたので、希望→懲役→後悔 の順になり、現在 後悔を読んで…

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小説「火定(かじょう)」 澤田瞳子 著             奈良時代の天然痘

 奈良時代の天然痘は「天平の疫病大流行」と呼ばれ、天平7年(735年)~同9年(737年)にかけて大流行し、当時の日本の総人口の25~ 35%にあたる100~150万人が感染で死亡した。当時は治療法も未熟だったから罹患したら死亡率は50%以上に登ったと推定される。  天然痘は735年に九州で発生したのち全国に広がり、平城京(奈良)でも大量の感染者を出した。737年6月には疫病の蔓延によって…

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「無暁の鈴(むぎょうのりん)」西條奈加 著 光文社 2018年

 とても悲しい物語で、涙ながらに一気に読んだ。  行之介・久斎は高崎藩郡奉行の側女の子に生まれた。正妻にはすでに2人の男子がいたが、久斎は身体も大きく文武共に優れていたから2人の兄とその母に妬まれ、意地悪に我慢できず盛大な兄弟喧嘩をしてしまった。結果 10歳の時、山奥の貧しい寺に預けられ、僧名を久斎とされた。  山寺には5~6人の兄弟子小坊主がいたが、その小坊主たちにも経の覚えが良い…

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「星祭りの町」津村節子 著 新潮文庫

 この小説は著者 青春時代の自伝的小説だそうだ。  入間川町は昭和29年に近隣の町と合併して狭山市になっている。近くにあった豊岡町は同様にして入間市になっている。狭山市と入間市の関係はこんがらかっていて、狭山市に入間川小学校があり・入間市に狭山小学校がある。入間基地は狭山市にあり、狭山丘陵は所沢市・入間市と東京都多摩地域にまたがる形で存在し、狭山市には存在しない。かっては両市を合併して大狭…

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「わかれ縁(えにし)」 西條奈加 著 文芸春秋社

 最近、この作者が好きだ。この小説は「オール読物」に発表された、6っの短編の連作小説だ。一冊の本にまとまり一つの時代長編小説のようにもなっている。  主人公は団扇作成の職人の娘・絵乃18歳で、錦絵屋の売り子をしていたが、よく来る・女にもてる客・富治郎20歳に求婚され、父は苦い顔をしたが結局は認めてくれた。ただし、同居は拒み、2年後に亡くなった。  しかし、富治郎はどんな仕事も長続きし…

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秀才でありながら、歪んだエリート意識で不誠実な生活を続けていた人がまともな生活に立ち戻れたきっかけ

「私のなかの囚人 ~教育学者の自立への旅~ 」の著者 は父が戦死し、小学校教員で多忙で貧しく生活にゆとりのない母に育てられ、栄養失調の虚弱児として育った。小学3年までは虚弱ゆえに特学に在籍させられていた。  そのことでの劣等感・受けた「いじめ」等から、荒れ狂い、家の金の持ち出し・万引き・母への暴力行為などを続け、「なぜ、俺を産んだのだ」と母に迫ることもあった。  小4くらいから、身体…

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阿呆なエロ大名を、反省心もある大名として描いた、池波正太郎の「晩春の夕暮れに」

 この短編小説のモデルになったのは、浜松6万石の井上正甫である。  彼の父で前藩主の井上正定も阿呆だった。正定は老中にもなれる家柄だけを誇りに、何の力もないくせに身分卑しい母から生まれた将軍 徳川吉宗に抵抗した。吉宗は父がお風呂番をしていた力持ちの女にいたずらして生まれてしまったという。だから幼少の時は母子ともに家来の家に引き取られ、家来の子として育てられたが、兄2人が次々に病死するという…

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「私のなかの囚人 ~教育学者の自立への旅~」 川口幸宏 著

 この著者は1943年(昭和18年)三重県の生まれで、父母は共に奈良県の家柄は良いけれど貧しい生まれ。  父は職業軍人だったが、別に好戦的・軍人希望ではなく農林学校を卒業したのち、貧しさゆえに軍人以外の進路がなく、著者が生まれた時にも戦地にいて少尉にまで出世したが、1年後にわが子を見ることもなく戦死した。  母は貧しさの中 女子師範学校を出て小学校教員(著者の生まれた頃は国民学校)に…

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銀杏(ぎんなん)手習い (西條奈加 著 祥伝社 平成29年)

 嶋村夫妻の出戻り娘・萌 が師匠である手習指南所「銀杏堂」を舞台とする短編連作小説である。  父 承仙は裕福な商家の次男坊であったが学問好きで幕府学問所に学び、母 美津は旗本の娘であったが、縁あって結ばれ、手習指南所を開いた。以来25年。萌は実子ではなく捨て子であったのだが、夫妻に拾われ 可愛がられて育てられ、御家人の家へ嫁に行ったが3年後、子が生まれないという理由で離縁された。 …

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定年オヤジ改造計画    反省することは多々ある !

 これは垣谷美雨原作の小説であり、マンガにもなり、テレビでは郷ひろみ主演で今年 7月25日(月)夜9時~10時59分 BSプレミアム、BS4Kで同時放送予定という。 「子どもは3歳までは母親が育てるべきだ」「女は子どもを産んで育ててこそ一人前」と口に出すことはなくても、主人公・庄司常雄(郷ひろみ)はそんな考え方の持ち主である。だが、大手石油会社の部長を定年退職し、天下り先の関連子会社はあっけな…

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自分の老後はどうなるんだろう?              小説「じい散歩」 藤野千夜 著

 それなりに人生の成功者である明石新平の寂しい老後生活を淡々と描いただけの小説で、テーマも訴えもないみたいでつまらないと云えばつまらない小説だが、わが身に置き換えて身につまされた。  新平は北関東の田舎町(村)に生まれ育った。すぐ下の妹さとえの同級生だった英子と兄弟姉妹のように過ごしたが、英子は11歳の時 両親を続けざまに失い、東京の郵便局に勤めていた歳の離れた ひい姉ちゃんに引き取られ、女学…

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「新十津川村物語」全10巻を読了

 津田フキという少女が9歳の時、奈良県十津川村が豪雨による山津波で両親を失い、その他にも多数の死傷者が出て、家も土地も失ったから、北海道空知地方(砂川市・滝川市付近)に新十津川村を作り、原生林を切り開き開拓していく物語である。  フキと兄の照吉は、近所に住む・父の助手的立場だった中崎菊次一家の家族として育てられ、フキは菊次の子・豊太郎と恋しあうようになるが、中崎家でも生活が成り立たなくなり、他…

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光りとともに~自閉症児をかかえて~   エリートのつもりの無能な夫

 この物語は、自閉症児を抱えている何人かの父母に取材して、福祉センターなどでも話を聞きながら描いた物語である。  主人公の幸子は情報関係の企画営業で課長候補になってる東 雅人と職場結婚して、専業主婦になった。多くのライバルの中から選ばれて、夫は仕事人間だったが、幸福の絶頂だった。  子どもも生まれて、希望に満ちた将来を連想し「光」と命名した。  しかし、この子は言葉が遅かった。しばしばパニ…

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小説「新十津川村物語」川村たかし 著(4)

あや は同僚先輩の栃谷和三郎先生と結婚した。和三郎は札幌で駄菓子屋をしていた母が、続いて父も亡くなっていた。時代は第1次世界大戦の終わったところで、開拓村では小豆や大豆の長者が生まれ、村を捨て海へ行った者にもニシン長者が生まれた。フキの家も大いに潤ったが、好景気でインフレ気味であったから、教員など給与生活者は苦しかった。  フキは和三郎の生活力を危ぶんだが、あや の気持は強く、恭之助も「…

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小説「新十津川村物語」川村たかし 著(3)

豊太郎に役場勤務の話が来た。高等小学校を卒業した あや は、新十津川村の山奥に新しく開拓された吉野地区の小学校の代用教員になり、自宅から通うのは不可能。高等小学校へ進んだ庄作も寮生活になり、農業はほとんど フキ 一人の仕事になるので、「無理過ぎる」と あや と 庄作 は反対するが、役場勤務は豊太郎の子どもの時からの夢であり、豊太郎は一人で決めてしまった。  ※ それにしても、あや は、現…

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小説「新十津川村物語」川村たかし 著(2)

 豊太郎は戸主であり、27歳になっていたから、日露戦争への召集は考えられなかったが、召集令状が来た。それだけ日本の兵力補充は困難になって来ていたのだ。  ちょっと脱線して、日露戦争について解説する。  日露戦争は日本海と満州を戦場にした戦争だよ。ロシア海軍は日本の2倍、陸軍は10倍と云われた。ロシア海軍の半分は極東艦隊で日本海軍全部とほぼ同規模で旅順港にいた。これが黒海にいたバルチック艦隊と…

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小説「新十津川村物語」川村たかし 著

 全10巻の長編だそうだが、読み易く第2巻まで一気に読んで、今日は第3巻と第4巻を借りてきた。  主人公の津田フキは1889年(明治22年)の十津川大水害・大々的な山崩れ(この台風被害は全国に及び埼玉も大被害を受けている)で両親を失った。父は地域のリーダーでいち早く避難誘導をしたのだが、逃げ遅れた妻を助けようとして共に倒壊する家の下敷きになって亡くなったのである。  そこで、父の補佐だった中…

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小説「無刑人(むけいびと) ~芦 東山(あし とうざん)~」  熊谷 達也 著  (5)

仙台伊達藩藩儒となり 同藩藩儒筆頭田辺整斎の紹介で幕府儒官 室 鳩巣(むろ きゅうそう)の弟子にさせて貰った孝七郎は室 鳩巣が多忙を極めてなかなか会えないので、待つ間に綱吉時代の幕府儒官で吉宗時代の今は気楽な浪人・在野の儒学者として時々は将軍の諮問も受けている荻生徂徠(おぎゅう そらい)を訪ねた。のちに会える 室 鳩巣との人物対比を示すための創作だろうが、2人の違いが面白い。  孝七郎が…

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小説「落ちてぞ滾(たぎ)つ」 蜂谷 涼 著  (3)

 第3部 落ちてぞ滾つ 今日は、久々にシマムラ1号店の空き家になった建物で営業している・ボクのお気に入りの安いレストランで昼食後 この小説の第3部を読み切った。一気に読み切れた。馬鹿々々しいけど、確かに面白い。   「落ちてぞ滾つ」というのは、由津の夫・主水が切腹前に主席家老・栄之進に頼んで詠じてもらった古今和歌集の「血の涙 落ちてぞ滾つ白川は 君が世までの名にこそありけれ」から採って…