士族としての誇りを胸に秘め

 坂上泉の「へぼ侍」を読了した。著者は東京大学文学部日本史学研究室で近代史を専攻し、西南戦争を描いた本書で2019年第26回松本清張賞および第9回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞して作家デビューしている。本書は、明治維新により没落した武士の息子が、士族として名誉を取り戻すために志願兵として西南戦争に参戦する姿を描いた時代小説である。
 物語の舞台は西南戦争が勃発した明治十年である。主人公で十七歳の志方錬一郎は大坂東町奉行所与力の息子であるが、父親の英之進が鳥羽伏見の戦いで戦死して家が没落たため、幼い時から道修町の薬問屋山城屋に丁稚奉公に出ていた。錬一