日本一富んだ村

 青山文平の「本売る日々」を読了した。著者は時代小説作家であり、2011年、著者が53歳の時に「白樫の樹の下で」で第18回松本清張賞を受賞して再デビューし、史上二番目の67歳で2016年第154回直木賞を受賞している。本書は、城下町で開業する傍ら、月に一度、在所を行商して歩く本屋を主人公とした時代小説の連作中編集である。
 物語の舞台は文政年間で、主人公の松月堂平助は本屋であるが、彼が扱っているのは草双子の類ではなく、「物之本」、すなわち漢籍や仏書、歌楽書、国学書といった学術書である。彼は最近、地方の本屋の憧れである開板(自前の本の出版)に失敗し、多額