冬に咲いた南洋桜

 岩井圭也の「楽園の犬」を読了した。著者は小説家で、2018年「永遠についての証明」で第9回野性時代フロンティア文学賞を受賞して作家デビューしている。本書は、太平戦争開戦前夜に海軍のスパイとして、防諜活動のためにサイパン島に派遣された、インテリ青年の姿を描いたミステリーである。
 物語の舞台は太平洋戦争勃発の直前である。本書の主人公の麻田健吾は甲府出身で、一高から東大文学部を卒業した秀才であったが、喘息の持病があったために一流企業には就職できず、横浜の高等女学校の英語教師をしていた。麻田は就職した二年後に甲府出身のミヤと結婚して息子の良一が生まれる。そ