『万葉集』を訓(よ)む(その二千六十)

 今回は、一六九三番歌を訓む。本歌は、「紀伊國作歌二首」の二首目。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。三句の一字目は、パソコンにない文字なので、【悋】で代替したが、【忄+メの下に厷】という字。澤瀉『萬葉集注釋』に「【忄+メの下に厷】は正字通に『本作吝、俗作悋』とある。」によった。

  玉匣 開巻惜 
  【悋】夜矣 袖可礼而 
  一鴨将寐

 一句「玉匣」は「玉匣(たまくしげ)」と訓む。この句は、九三・九四番歌の一句及び五九一番歌の三句と同句。「玉匣」は「玉櫛笥」とも書き、「たま」は美称で、美しいくしげ。「くしげ」は、櫛や化粧の道具を