稲木 信夫さんを偲んで   



十年前頃、あの人に偶然出会った。健康の森の温泉センターのロビー、奥さんを連れて
いらっしゃって、僕は階段から落ちて右手が上がらくなって、温泉治療に通っていた。
彼は小さな声でボソッと話し出した。
「君の詩は面白いよ。独創性があって初めてだよ、こんな詩を読んだのは」
僕は「稲木さんの詩の世界に近づこうと頑張っています」
と言うと、力強く
「それはだめだ、君は自分の詩の世界を作ることを目指すべきだよ」
予想外の真面目な答えが返ってきた。軽いリップサービスなのに。
僕は初めてこの先輩がどんな文学道を歩んできたのか、興味を持った。
それ