『万葉集』を訓(よ)む(その二千七十三)

 今回は、一七〇六番歌を訓む。題詞に「舎人皇子御歌一首」とあり、本歌は「舎人皇子(とねりみこ)の御(み)歌(うた)」である。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。なお、五句の二字目は、雨冠(かんむり)に微という字であるが、パソコンのソフトには無い文字なので【雨の下に微】とした。

  黒玉 夜霧立 
  衣手 高屋於 
  霏【雨の下に微】麻天尓

 一句「黒玉」は「黒玉(ぬばたま)の」と訓む。この句は、一一〇一・一二四一番歌の一句「黒玉之」と連体助詞「の」の表記はないが、それを補読して同句。「黒玉」は、アヤメ科の多年草「檜扇」の古名の「ぬばたま」の「実