『万葉集』を訓(よ)む(その二千七十四)

 今回は、一七〇七番歌を訓む。題詞に「鷺坂作歌一首」とあって、本歌は、「鷺坂(さぎさか)にして作(つく)る歌(うた)」である。同じ題詞の歌が、一六八七・一六九四番歌にあった。鷺坂(さぎさか)は、京都府城陽市久世を南北に走る旧大和街道の坂で、近江・北陸方面への道筋にあたる。坂のある台地が鷺坂山であり、丘上に久世神社がある。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  山代 久世乃鷺坂
  自神代 春者張乍 
  秋者散来

 一句「山代」は「山代(やましろ)の」と訓む。「山代」は、下に連体助詞「の」を補読して「山代(やましろ)の」と訓む。金井『萬葉集全注』