『万葉集』を訓(よ)む(その二千七十七)

 今回は、一七一〇番歌を訓む。本歌に題詞はないが、次歌(一七一一番歌)に「右二首或云柿本朝臣人麻呂作」との左注があるので、本歌が人麻呂の作であることがわかる。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  吾妹兒之 赤裳埿塗而 
  殖之田乎 苅将蔵 
  倉無之濱

 一句「吾妹兒之」は「吾妹兒(わぎもこ)が」と訓む。この句は、一六二五番歌一句他と同句。「吾妹兒(わぎもこ)」は、「吾妹(わぎも)」(「わがいも」の変化した語)と同じく、自分の、妻や恋人である女性、または広く女性を親愛の気持をこめて呼ぶ語である。「兒」は「子」に同じで、親愛の意を表す接尾語。