大隅和雄「中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』」

 著者によると中世では漢字漢文は貴族や僧侶しか読み書きできず、宮廷文化は仮名文字しか読めない女性によって支えられていたそうだ。では中世では文化はごく一部の人々の間にしかなかったかと言うとそんなことはなく、ことばは声で伝えられ記憶され、無文字の豊かな文化があったと言う。後世に伝えられた本はそんな無文字社会の傍で作られたものに過ぎないとのことである。本書ではそんな中世社会の様子を親鸞の手紙と「平家物語」で辿っていく。

 親鸞の主著は「教行信証」であるが、著者によると「教行信証」は人に読ませるために書かれたものではなく、親鸞が自分の覚書として書き続けたもので