「書評」の日記一覧

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山口拓朗『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』

 著者は出版社で編集者・記者を経て独立。執筆、講演、研修を通じて言語化のノウハウを伝授されている方。まさに、言語化のプロ。学者ではないので、すこぶる実用的。だからと言って、表層的なノウハウだけではない。言語化のメリットを説く際には深い洞察もある。言語化は手段であるだけではなく、その人の人生の一部でもある。言語化力をアップさせることで、自らの人生をより豊かにして欲しいという願いが著者を突き動かして…

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寺嶋直史「コンサルタントのための課題解決型ヒアリングの技術」

 著者は事業再生コンサルタントとのことだが、大手コンサルティング・ファームのメンバーではなく独立系。コンサルの対象となるのは中小企業である。コンサルと言うと横文字を駆使して華やかな最新の経営理論を展開する戦略系コンサルがイメージされるが、著者はバリバリの実務家コンサル。あくまで具体的に中小企業の課題を解決して、業績を改善させることを生業にしている。そんな著者の目から見ると、本来は対象企業の課題を…

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杉山文野「元女子高生、パパになる」

 著者の話を社内講演会で聞いた。私の所属する会社も各種ハラスメントの防止に努めており、LGBTQ+の方への接し方などのEラーニング研修もあり、頭では理解しているつもりであった。しかし、ご自身がトランスジェンダーの著者の話を聞き、表面的な知識では性マイノリティの方の生きづらさを全く理解できていないことを思い知らされた。著者の話を聞きながら、生の一瞬一瞬が本当に辛かったんだろうなと痛みを感じるほどで…

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大隅和雄「中世の声と文字 親鸞の手紙と『平家物語』」

 著者によると中世では漢字漢文は貴族や僧侶しか読み書きできず、宮廷文化は仮名文字しか読めない女性によって支えられていたそうだ。では中世では文化はごく一部の人々の間にしかなかったかと言うとそんなことはなく、ことばは声で伝えられ記憶され、無文字の豊かな文化があったと言う。後世に伝えられた本はそんな無文字社会の傍で作られたものに過ぎないとのことである。本書ではそんな中世社会の様子を親鸞の手紙と「平家物…

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羽根田治「山のリスクとどう向き合うか」

 私は四国歩き遍路の足慣らしとして、近隣の低山にトレッキングに出かけることがある。首都圏のメジャーな低山でも、ちょっと油断すると滑落・遭難しそうと感じることはあり、本書を読んでみた。山での遭難事故の事例がたくさん取り上げられており、これだけ畳み掛けられるともう山に行こうという気がしなくなる。それだけ山には危険があり、そのことをよく理解して自己責任で覚悟をもって山に臨んで欲しいということが著者のメ…

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金子智朗『教養としての「会計」入門』

 新卒で入社した会社が金融機関の勘定系システムを開発する会社だったので、新人研修で簿記を5日間学んだ。この研修は私の社会人の基礎となり、今も生きている。仕事をする上ではシステムを導入したり、業務を委託したり、貯蔵品の棚卸をしたりと経理関連業務は共通業務としてどの部署に行っても発生する。また、中堅・管理職となれば自部署の予算管理は欠かせない。管理会計も見よう見真似で実務に取り組む。子会社の監査役に…

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立石剛「セミナー講師の教科書」

 本書は文字通りセミナー講師を目指す人に対して、どうしたらセミナー講師になれるのか、どうしたら1年目から結果を出し10年稼ぎ続けられるセミナー講師になれるかを丁寧に解説している。本書は大変参考になるが、私がやりたいのはセミナー講師ではないことも分かった。講師業には「講演家」「研修講師」「セミナー講師」の3種類があり、私は研修講師を目指している。とは言っても、研修講師とセミナー講師には共通点も多く…

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いとうせいこう『ガザ、西岸地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く』

 本書は『「国境なき医師団」を見に行く』シリーズの3冊目。著者らが現地入りしているのはまだ新型コロナウイルスが世界的な感染が広がる前の時期。現在、ガザ地区は大きな紛争となっているが、本書のドキュメンタリーはそれ以前の話。アメリカのトランプ前大統領がアメリカ大使館をエルサレムに移転したことに端を発して、パレスチナ側では抗議デモが起こり、それを弾圧するためにイスラエル側から武力行使が行われた。本書で…

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隆慶一郎「死ぬことと見つけたり 上」

 冒頭は異様な雰囲気で始まる。主人公がいきなり虎と戦って死ぬのである。といっても、これは今で言えばイメージ・トレーニングに当たる。真の葉隠武士は毎朝死ぬイメージ・トレーニングを行う。藩に仕えると色々としがらみができてしまうので、敢えて仕えず浪人として暮らす。だが、一度戦となれば、藩主のために命を投げ出すことに何のためらいもない。葉隠武士は死人として生きるのである。かと言って、命を粗末にすることも…

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村山昇『キャリア・ウェルネス 「成功者を目指す」から「健やかに働き続ける」への転換』

 人生100年時代となり、できるだけ長く働くことが求められるようになってきた。60歳、あるいは65歳で定年になった後を余生とするにはあまりにも長い時間が残されるからである。従来の滅私奉公的に会社の命じるままのキャリアから、昨今はキャリア自律が求められるようになった。180°の転換である。キャリア自律に向けてはキャリア・デザインの枠組みを利用するよう促される。仕事を知り、自分の志向性を知り、キャリ…

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スージー鈴木「幸福な退職 『その日』に向けた気持ちいい仕事術」

 著者は元博報堂の社員で、局長(一般企業の部長に相当)まで出世した。一方で、会社員時代から音楽評論家として執筆やラジオ番組に出演していたそうだ。マルチなタレントをお持ちだが、著者自身によると普通の会社員だったとのこと。ただ、普通と違うのは激務で知られる広告会社に務めながら、ほぼ定時で仕事を終え趣味に打ち込んできたこと。まさに仕事と趣味の両立によって、世に知られるようになったのである。  著…

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磯野真穂「他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学」

 日本は人口の高齢化に伴い医療費の増大をいかに抑制するか、大幅に介護者が不足しており要介護者をいかに抑制するかが国家課題となっている。そのため、いかに長く健康を維持するかが重要な政策取組みとなっている。著者は脳卒中のリスクを下げるための抗血栓療法を取り上げる。抗血栓薬は血栓をできにくくするが、一方血が止まりにくくなり大出血のリスクもある。「長嶋茂雄さんみたいになりますよ」と脳卒中のリスクは強調さ…

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伊集院静「ミチクサ先生 下」

 漱石はやはり傑出した人物であり、文部省の第1回給費留学生に選ばれイギリスに2年間留学。帰国後は東大講師に就任。当初は学生の発音を厳しく指導し総スカンを喰らうも、妻から「聞いている人たちの心を鷲づかみにする方法を勉強してみては?」と示唆を受けると、一躍その講義は大人気を博する。それでも、漱石は教師が嫌でたまらず思い悩む。そして、遂に小説を書く。これがまた情景が目に浮かぶような珠玉の文章だ。しかし…

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スティーヴン・ウルフラム「ChatGTPの頭の中」

 chatGPTも一時ほどバズではなくなった気がするが、ブームが過ぎるというよりも日常的に利用される段階に入ってきているのではないかと思う。マイクロソフトは自社の製品に生成AIを組み込む方針のようであり、他社の製品やサービスでも意識せずに生成AIを利用するようになるだろう。そんなchatGPTであるが、なぜ自然な言語が生成できるのか理論的には分かっていないらしい。chatGPTは言わば帰納モデル…

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野村泰紀「なぜ宇宙は存在するのか はじめての現代宇宙論」

 現代の宇宙論の進歩は目覚ましいものがあり、私たちが住む宇宙がどのように形成されてきたかがかなり詳細に分かっている。かなり詳細とはどの位かというと、宇宙開闢0.1秒以前と0.1秒以後では大きな変化があったことが分かっている。私たちの住む宇宙の宇宙年齢は138億光年だそうだ。しかし、この138億光年前の世界からの痕跡(光)は見ることができない。超初期の宇宙では光は真っ直ぐに進むことができなかった。…

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伊集院静「ミチクサ先生 上」

 夏目金之助は旧名主の六男として生まれるが、「恥かきっ子」として養子に出される。金之助は学問に秀でるも、養子先では進学させる気はなく、実兄の後押しもあり実父から学費を借りて進学する。養子先にも実家にも安住の地はなく、まだ幼かった金之助はアイデンティティの不安を覚え、自分の足で立たねばならないことを自覚する。とは言え、金之助は孤立無援ではなく、養母・実母からは暖かく見守られ、実兄にも気に入られ、人…

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池波正太郎「鬼平犯科帳6」

 今回のスタートは尋常ではない。長谷川平蔵が寝込んでいるのである。年中昼夜を問わないお役目に、さすがの平蔵も疲労が蓄積してひたすら寝込んでしまう。そんな間にも事件は起こる。2日ほど寝込んだ翌朝には早朝から早速動き出す。単に役目だからではなく、火付盗賊改方長官が無性に性に合っているのだ。だから、世情の情報を取るために私財も吐き出しており、その献身ぶりに部下の者たちも身を粉にして働き、かつての盗賊た…

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アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン「ライフ・シフト2 100年時代の行動戦略」

 主に先進国において少子高齢化が進み、人生が長寿化して3ステージの人生からマルチステージの人生に移行することは前著「ライフ・シフト」においても指摘されていた。その文脈において、日本でも盛んにリスキリングが論じられている。本書では更にテクノロジーの進化が我々の長寿化した人生にどのように影響を及ぼすかを主な論点としている。一番の関心事は雇用だ。最新テクノロジー、具体的にはAIによって大量失業が危惧さ…

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稲盛和夫「稲盛和夫の実学 経営と会計」

 本書はバブル崩壊で日本経済が低迷し、企業不祥事が頻発している状況に憤りを感じた著者が経営者はかくあらねばならないという思いから記した著作である。裸一貫から京セラを世界的企業に育て上げた著者にとって会計は文字通り死活問題だった。経理部の算出した決算数値を鵜呑みにすることはできず、納得するまで経理部長と問答を繰り返したそうだ。この辺は、製品の開発に一切の妥協を許さない技術者の面目躍如というところか…

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安齋徹、周藤亜矢子「女性のためのキャリアデザイン」

 「キャリアデザイン」について講義することを模索しており、参考書を物色する際に本書に行き当たった。いわゆる「キャリア教育」の典型的なパターンとは一線を画す内容になっていることが本書に着目した所以だ。よくある「キャリア教育」とは自己理解から出発して、職業理解、キャリアプランと進む。しかし、まだ発展途上で多感な若者の不確かな「自己」を前提としてキャリアプランを描くことには無理があるように思われる。ま…