古書に憑かれた男

 芦辺拓の「奇譚を売る店」を読了した。著者はいわゆる新本格派のミステリー作家で、ミステリーに対する造詣の深さ、博覧強記で知られる。本書は古書をモティーフとしたホラーの掌編集である。本書では、古書蒐集に憑かれ、古書店を見かけるとその店に入って毎回古書を買ってしまう語り手が迷い込む、現実と虚構のあわいで出会う幻想怪奇が描かれている。
 「帝都脳病院入院案内」:「また買ってしまった」との呟きとともに語り手が古本屋で購入したのは、明治の末に練馬区の丘の上に建てられた、我国では草分けの精神科病院の入院案内である。それは二十ページ足らずの右横書きの小冊子であったが、