『万葉集』を訓(よ)む(その二千八十八)

 今回は、一七二一番歌を訓む。本歌は「元仁歌三首」の二首目。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  辛苦 晩去日鴨 
  吉野川 清河原乎 
  雖見不飽君

 一句「辛苦」は「辛苦(くる)しくも」と訓む。この句は、二六五番歌一句「苦毛」と表記は異なるが同句。「辛苦」は、漢語ではシンクと訓み、「つらいめにあって苦しむこと。」をいうが、ここは、「難儀である。つらい。せつない。」の意を表わす和語のシク活用形容詞「くるし」にあてたもので、その連用形「辛苦(くる)しく」と訓む。下に係助詞「も」を補読する。
 二句「晩去日鴨」は「晩(く)れ去(ゆ)く日(ひ)