『万葉集』を訓(よ)む(その二千八十九)

 今回は、一七二二番歌を訓む。本歌は「元仁歌三首」の三首目。
 写本の異同は、五句三字目<真>。『西本願寺本』他に「莫」とあるが、『伝壬生隆祐筆本』『類聚古集』『古葉略類聚鈔』に「真」とあるのを採る。
 原文は次の通り。

  吉野川 河浪高見 
  多寸能浦乎 不視歟成嘗 
  戀布<真>國

 一句「吉野川」は「吉野川(よしのがは)」と訓む。この句は、前歌(一七二一番歌)の三句と同句。「吉野川(よしのがは)」は、紀ノ川上流部のことを奈良県でいう名で、大台ケ原山(一六九五メートル)を源とし、吉野町で高見川を合わせ、極端な曲流をなし、宮滝を経て、五條市付