『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十)

 今回は、一七二三番歌を訓む。題詞に「絹歌一首」とあり、本歌は「絹(きぬ)の歌(うた)」である。「絹(きぬ)」は人名であることは間違いないが不明。阿蘇『萬葉集全歌講義』は次のように注している。

 絹 絹の名は一見女性的だが、娘子とも、「……売(め)」ともなく、遊行女婦ともないところから見て、男子の通称であろう。全註釈に「絹麻呂とでもいう人だろう」とする。憶良が自分のことを良といった例(15・三六九六左)もある。また男子の庶民の名には、鳥・猪・熊・国など一字のものも少なくない。

 写本の異同は、五句三字目<河>。『西本願寺本』以降の諸本に「君」とあるが